「医療用大麻ビジネス」は海外で右肩上がり 日本が参入する日は来るのか
存在感を増す「大麻スタートアップ」
先ほど少し触れたが、世界の先進国で大麻は非厳罰化・非犯罪化が進行している。米国では合法化される前に、大麻所持で逮捕された人々を恩赦で釈放したような州もある。そういう流れに日本は完全に背を向けている。 「大麻=麻薬=社会悪」という日本において、いくら医療に使うことが認められたとはいえ、参入するのはリスクが高すぎる。しかも、世間から叩かれて炎上の恐れもあるので、株式上場しているような大企業からすれば、「触らぬ神に祟りなし」という経営判断になってしまうのだ。 そこで注目を集めているのが、「大麻スタートアップ」である。 海外で実際にグリーンラッシュの将来性を目の当たりにしてきた起業家が「この分野は勝機がある」とスタートアップを立ち上げ、存在感を増してきているのだ。 例えば、タイの首都バンコクで医療用大麻を植物工場で生産しているキセキグループ(東京都港区)という会社がある。 創業者の山田耕平社長は、もともと海外青年協力隊で東アフリカのマラウイ共和国に赴任後、商社にてレアメタル資源輸入事業などで世界50カ国を飛び回った国際派だ。2010年代後半、欧米の「大麻企業」が成長し始めて、グリーンラッシュの盛り上がりを目の当たりにした。その後、2020年に英オックスフォード大学のエグゼクティブMBA(経営学修士)課程を修了し、キセキグループを立ち上げた。
日本初の大麻医薬品開発を目指す
山田氏に話を聞くと「医療用大麻は高品質なものになれば、1グラム当たり10ドル以上の価格で販売されています。このような高品質な植物を大量生産するために、日本の技術力を使えば世界と勝負ができると思いました。そこで独自の品質管理ができる植物工場の開発に乗り出したのです」と話した。 植物工場の世界的権威といわれる千葉大学名誉教授の古在豊樹氏を取締役に迎え、さまざまなアドバイスのもと、バンコクに医療用大麻工場を建設。その後、医療用大麻栽培の国際認証およびタイの医療用大麻栽培、販売、輸出入ライセンスを取得。2025年1月には、日本企業として初めて医療用大麻を欧州やオーストラリアに出荷する予定だ。 もちろん、右肩上がりの成長が予想されるグリーンラッシュの中で、キセキグループとしても「医療用大麻の製造と販売」は通過点に過ぎない。 「カンナビノイド創薬、つまりは大麻成分を用いた医薬品のベンチャーを立ち上げて、日本発の大麻医薬品を開発したい。まずは成分の有効性が期待されている抗てんかん治療薬、がん患者の緩和ケアにおける鎮痛領域での治験を進めていきます」(山田氏) そう聞くと「ベンチャースピリッツは立派だけれど、なかなか難しそうだな……」と感じる人もいるかもしれない。先ほど紹介したように日本では「大麻」という響きを耳にするだけで、「社会から撲滅すべきもの」と感じる方も多くいらっしゃる。 つまり、治験を始めた途端、中止しろというSNSデモが始まったり、治験にかかわる研究者や研究機関への嫌がらせなどが大盛り上がりしそうなリスクが高いのだ。 そういった社会の反発もあるだろうが、個人的には紆余曲折を経ながらも、日本でも大麻医薬品の治験や開発が進められていくのではないかと思っている。 それは、少子高齢化が進んでいるからだ。