「市長には人事権はありません」「えっ、どういうこと?」副市長が市長の〈最大の抵抗勢力〉になる理由
市長が2つの権限を行使しようとすれば、職員からものすごい反発、抵抗を受けます。ですから、実際にそれを行使したことのある市長は全国でもほとんどいないはずです。でも私は12年の任期の中で、関係部署に抵抗を受けても市民の望むことを実現すべく働いてきました。 抵抗を受けようが、脅されようが、嫌がらせを受けようが、「やさしい街をつくる」という志を貫く一心で、誰にも屈することはありませんでした。 私にできたのですから、他の市町村の首長にも2つの権限を行使することは必ずできるはずです。何度も言いますが、「やる気になればできる」ことなのです。 ● 副市長は市長にとっての 最大の抵抗勢力になりうる 市役所には市長を補佐し、時に職務を代行する役割を担う副市長という役職があります。いったん公務員を辞めてから就く特別職です。字面だけ見ると「市長をサポートする人」と多くの方が思われるかもしれません。 しかし、地方自治を構造的に捉えた一般論として話せば、副市長は市長にとっての最大の抵抗勢力にもなりうる存在です。 副市長は市の職員の代表であり、なおかつ議会と市長をつなぐパイプ役、調整の窓口といってもいい。つまり、基本的に副市長は職員の側の人間であり、議会(多数派)の側の人間です。
簡単にいえば、議会にとって副市長は自分たちの子分のような存在であり、役所職員からすれば自分たちの親分のような存在となります。 議会の多数派が推す人が市長になれば、市長と副市長が対立する構造にはなりません。しかし、私のように支持母体となる集団を持たない(私の支持母体は市民です)人間が市長になると、当然副市長は組織防衛に走ります。とりわけそれまでの市役所のやり方を根底から覆えそうとする私のような市長であれば、組織の抵抗はより激しくなります。 私がもし既得権益のためだけに働き、職員や議員と仲良くしたいのなら、副市長はとても頼りがいのある存在になります。でも、私のように議会より市民を選び、職員より市民を選ぶと、副市長は必ずしも頼りがいのある存在とはいえなくなります。 副市長の選任には、議会の同意が必要です。形式的には市長が「この人を」と提案しますが、実際にそれを許可するのは議会なので「この人にやってほしい」と私がいくら思っていたとしても、抜擢人事を成し遂げるのは難しい。 だから一般論でいう副市長は「庁内の人望のある人。簡単にいえば人事畑のトップ」が就くことが多いのです。
泉 房穂