数年の猶予が得られても、妊娠の期限は確実に迫る──1回あたり最大100万円が目安、サービス提供側の思い #卵子凍結のゆくえ
卵子凍結保存の二つの壁
卵子の老化を止められる凍結保存技術は、女性にとって画期的な発明だ。だが、手軽にできるものではない。まず費用がかさむ。 婦人科で診察を受け採卵を行う費用は、だいたい15万~50万円くらいだ。しかも、医療行為ではあるが、健康保険対象外の自費診療となるため、全額自己負担となる。加えて、卵子を凍結する費用と卵子の保管料がかかる。プリンセスバンクのケースでいえば、凍結費用が約25万円、保管料が卵子1個を1年間保管するのに1万円。合わせて最大でも100万円もあれば、卵子凍結保存を1回行うことは可能だ。ただし、卵子を多くとるために、採卵を複数回行えば、さらに費用が膨らんでいく。 1回100万円という金額は、金銭的な余裕がないと難しいだろう。同社が定期開催している卵子凍結セミナーの参加者の約30%は、年収が700万円以上ある人だという。
もう一つのハードルが体への負担だ。まず、通常は月に1個しか成長しない卵子を、同時に複数個取るために薬で卵巣を刺激する。十分に卵が育ったタイミングで、卵巣に針を突き刺して卵を直接採取する。一度に採取できる数は年齢や体質によってさまざまだ。 採卵の技術は確立されているが、医療行為である以上、絶対に安全とは言い切れないと香川さんは警告する。 「もともと卵巣は親指の頭くらいの大きさですが、一度に多くの卵子を取ろうとして強い刺激を与えたときは、こぶし大まで腫れた状態になることがあります。それだけでも体に負担が大きいことが想像できると思いますが、腫れた卵巣がねじれて捻転が起こり、卵巣が虚血で壊死(えし)してしまう可能性もゼロではありません」 不妊治療で体外受精を行うときにも同様の方法で採卵するが、他に方法がない場合と、まだ自然妊娠の可能性を大いに残した若い未婚の時期に採卵する場合とでは、許容できるリスクは違ってくる。 苦労して採取した卵子の出番が来るのは何年か先のことだ。それまで、どのように管理されるのだろうか。また、万が一、会社が倒産してしまった場合は、卵子はどうなるのだろうか。 「凍結保存をした後は、凍結卵子のデータ管理が重要になります。たとえば未婚の女性で卵子凍結を行った方が結婚されたり、住所や氏名が変更されたりしたら、随時情報をアップデートしていく必要があります。万が一、保管が続けられない事態が起こった場合、当社では、提携先医療機関に移管し、引き続き同等の条件で保管継続できる体制をとっています」