数年の猶予が得られても、妊娠の期限は確実に迫る──1回あたり最大100万円が目安、サービス提供側の思い #卵子凍結のゆくえ
妊活は一人でも始められる
妊娠・出産の点からは、若い時期に自然妊娠をすることが最も望ましいと香川さんは言う。というのも、凍結保存をしても将来確実に妊娠するとは限らないからだ。すでに述べた通り、体外受精における生産分娩率は30歳でも22%、40歳で10%だ。40歳で体外受精を行う際に、30歳の卵子があれば、10%ではなく、22%の生産分娩率が期待できる。だが、どうしても子どもが欲しい人にとって、22%という確率はあまりにも心もとない。 母体の安全上の問題もある。加齢に伴い流産率は上昇し、妊娠高血圧などの合併症も起こりやすくなる。卵子の時を止めて数年の猶予が得られても、妊娠の期限は確実に迫ってくる。 「カウンセリング時には、妊娠にまつわるさまざまな誤解を解き、卵子凍結のメリットやデメリットを理解してもらい、将来のライフプランの希望をお聞きします。相談者の抱いている不安や子どもが欲しいと思う気持ちの強さなどをふまえて、卵子凍結で解決できるのか、他の方法のほうがよいのかを一緒に考えていきます」 プリンセスバンクでは相談から最終的に保存まで至る割合は7割ほどだ。だが、同社の利用者で出産をした人の8割は自然妊娠だという。凍結卵子を使った人が1割で、残りの1割は凍結した卵子ではなく現在の自分の卵子で体外受精をしている。1人目は自然妊娠で試みて、凍結卵子は2人目、3人目の子どものためにとっておくのである。卵子を凍結する理由も、その活用の方法も人によってさまざまだ。 「妊活は一人でも始められます。大切なのは、今の自分が将来の不妊の不安に対してストレスを抱きすぎないようにすることです。将来の不安を、専門家とともに一緒に整理していくだけでも、その後の道は違ってきます。解決方法は卵子凍結だけではありません。出産率は女性だけでなく男性の年齢も関わってきますから、30代後半の女性でも20代のパートナーを探せば、34歳以下の人たちと同じ確率になります。キャリアのことを考えて卵子凍結しようという場合も、子を持たない生き方や、養子縁組も視野に入れてもらいたいです」 --- 香川則子(かがわ・のりこ) 順天堂大学産婦人科協力研究員、公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター基礎研究部研究員。京都大学で博士号を取得後、世界最大の不妊治療専門施設の付属研究所で8年間の研究キャリアを積む。2014年12月、独立して「プリンセスバンク」を立ち上げる。 寒竹泉美(かんちく・いずみ) ライター、小説家。九州大学理学部卒業、京都大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。大学院では神経生理学を学び、アルツハイマー型認知症の基礎研究を行う。2009年に『月野さんのギター』(講談社)で小説家デビュー。理系ライター集団「チーム・パスカル」メンバー。