ひろゆきのマネをして「それってあなたの感想ですよね」と口にする子どもはどういう目に遭うのか
私は叱りました。ガミガミとうるさいことを言うのは嫌いですが、このときばかりはきちんと叱りました。なぜならば、この言葉は本当に危ういからです。こんな考え方を身にまとい日々を過ごすようになれば、それは破滅への道に通じていると言っても過言ではありません。 ひろゆき氏は時代の寵児です。八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍は周知のとおりで、YouTube、書籍、テレビ番組における活躍のみならず、『異世界ひろゆき』(集英社)という、主人公である彼が敵を論破しまくる漫画まで登場し人気を博しています。 知の巨人と称される作家の佐藤優氏が、ひろゆき氏を「もっとも影響力を持つ論壇人の一人」としたうえで、彼の思想を過小評価すべきではないと指摘しているように、その影響力は絶大です。実際、「進研ゼミ小学講座」が実施した調査によると、「それってあなたの感想ですよね?」は2022年の流行語ランキングで1位、2023年には4位となっています。調査結果だけを見ると、この言葉が全面的に小学生から歓迎されているようにも思えます。 しかし、少し違った実情も見えてきます。この言葉、たしかに流行している様子が生徒からも伝わってきますが、それと同時に忌み嫌われている様子もまた伝わってくるからです。
先生は指導しない
このことは、学校での掃除の時間を考えてみれば容易に理解できます。 みんなが苦労して雑巾がけをしているなか、足で雑巾を踏みつけて掃除をする男子がいるとします。勤勉な女子は彼に「足で雑巾を踏んじゃいけないでしょ」と注意をしますが、それに対し先のような言葉で応戦してしまっては、クラスメイトから嫌われるのは当然です。注意に対しては屁理屈のような反論で応じる一方、よりよい掃除のための代替案は一切提示しないとくれば、嫌われない方がおかしい。批判という名の論破をすることが痛快でたまらない男子は、論破を試みるごとに周囲から疎まれてしまうわけです。 先生と生徒の間にも、同じようなことが言えます。とある荒れ果てた中学校のクラスでは、先生の指導に対し「それってあなたの感想ですよね」という言葉で応じる男子たちがいても、先生は指導をしないのだそうです。「怒られているうちが花」なんて言いますが、学級崩壊が生じている場合、もはや先生は怒りさえしないという話は「あるある」です。 立場が上であるはずの先生を、あたかも論破したかのように黙らせ、好き放題に振る舞うことができるとくれば、こんなに愉快なことはありません。先生からの指導や学校のルールという名の手かせ足かせから解放された生徒たちは自由を謳歌し、一時は楽しい学校生活を送ることでしょう。 しかし、その代償はあまりにも大きい。クラスメイトたちから白い目で見られるうえに、学力低下や成績の悪化を招き進路の幅が狭まるという散々な未来が待ち構えています。 この生徒は、目先の楽しさや快適さを優先した結果として、多くのものを失うことになります。 まず、クラスという名の共同体(居場所)を喪失したため、学校の外やネット上で居場所を確保する必要が生じます。学校内におけるルール(規範)を否定すれば、その学校内の共同体から排除されるのは必然です。 先生に代わる権威を求めるのであれば、適切な権威を探すという難しい仕事が待ち構えてもいます。ネット上を探せば、そんな権威になりそうなカリスマ的存在はあちこちにいますが、果たしてそれに従うことが本人にとってよいことなのかどうか、相当に微妙です。いわゆる迷惑系YouTuberにさえ、小中学生と思しき熱心なファン(信奉者)を確認できるあたり、安易に先生の代わりと見なすのは危険でさえあります。居場所も権威も否定し一人で生きてもよいのですが、その道のりが険しいことは自明でしょう。