転売ヤーがディズニーランドの「使用済みのチケット」を1000円で買い取る驚愕の理由
推しグッズに限定品、発売前から人気の新商品――需要が供給を上回ると見れば、品目を問わず大量に買い占めては高額で売り飛ばす。それが「転売ヤー」だ。現代社会の新たな病理となりつつある彼らは、いったいどれぐらいの利益を得ているのか。 【写真を見る】ディズニーランドの「使用済みのチケット」でできること 知られざる裏技
中国人による買い占めが度々問題視されているが、ディズニー関連の転売で実際どれぐらいの利益が出るのか。転売ヤー集団の劉姐(リウジエ)、阿麗(アリー)、蒋偉(ジャンウェイ)、梓梓(ヅゥヅゥ)、小静(シャオジン)〈名前はすべて仮名〉の5人の買い付けに同行した。中国人グループに密着取材したフリーライター・奥窪優木氏の最新刊『転売ヤー 闇の経済学』で、その“収支”を見てみよう(引用は全て同書より)。【全2回(前編/後編)の後編】 ***
午前中だけで1人およそ15キロほど購入
「では一回、車に荷物を置きに行きましょう」 劉姐の一声で、各自ビニールバッグを肩にかけて持ち上げはじめた。男性の蒋偉はもっとも重そうなバッグを左右の肩にひとつずつ。女性陣は、それぞれ一つずつバッグを運ぶ。筆者も取材をさせてもらっている手前、バッグをひとつ引き受けた。重さから、15キロほどはありそうだった。 時間はまだ正午前で、入園口からはかなりの人が園内の中心部へ流入してきていた。 我々は流れに逆らって歩いていく。その間も4人の女性は歩きスマホだ。もちろん、スタンバイパス(アプリで取得する、15分ごとに利用時間が区切られた予約枠)の予約枠を探しているのである。そして入園ゲートで再入園のためのスタンプを手の甲に押してもらい、駐車場へと向かう。 この際、筆者はちょっとした違和感を覚えた。閉園までに余裕がある時間帯にパークを出る際には、スタッフから「行ってらっしゃーい」と声をかけられるはずなのだが、その声がなかったのだ。ビニールバッグの中身を空にしてすぐに戻ってくることを知っているからなのか。理由はわからなかった。 駐車場のワゴン車にたどり着くと、5人は車内に置いてあった透明なゴミ袋にビニールバッグの中身を乱暴に詰め替え始める。先ほどショップ内でぬいぐるみの顔つきを丹念にチェックしていた慎重さは見る影もない。 空になった6つのビニールバッグを蒋偉がまとめて束ねると、われわれは再び園内へと戻った。ゲートのスタッフは、手の甲の再入園用のスタンプを見せると、今度は「お帰りなさい!」と歓迎してくれた。 そうこうしているうちにも、彼女らは次にターゲットとするショップのスタンバイパスを揃えていた。スチームボート・ミッキーズという、ゲートから徒歩5分ほどの場所にあるショップだ。先ほどと同じ要領でこの店を5回転したのち、また車に戻ってビニールバッグを空にして、園内へと戻ってきた。 時間は午後2時近くになっていた。 「ご飯食べに行きましょう」 劉姐の提案で、一行は園内のレストランで食事をすることになった。いつもは持参したコンビニの菓子パンなどを買い付けの合間に食べているというが、今日は長丁場なのでしっかりした食事を取ろう、ということになったのだ。 彼らが目指したのは、ドックサイドダイナーという飲食店だったが、なかなか辿り着けない。ショップまでは目を瞑っていても辿り着ける彼らだが、飲食店については把握していなかった。 そこで小静が、近くにいたスタッフに、店への行き方を尋ねた。 するとその男性スタッフはこう言い放った。 「アプリを見れば分かりますよ」 筆者はその態度に呆気にとられたが、小静は気にするでもなくアプリのマップ機能でレストランを検索した。すると、目当ての飲食店は、わずか2、3分の距離にあるではないか。男性スタッフが方向を指さしてくれさえすればわかったのだが、転売ヤーは彼らのホスピタリティの対象外というわけか……。