パンダはどこからやって来たのか? 白黒模様の起源と進化の謎
地球は46億年前に誕生したといわれています。そして生命は約40億年前に生まれ、多様な進化を遂げてきました。現在、地球上にさまざまな生物がいますが、パンダのように独自の進化が、わたしたちの興味をひきつけるものもいます。 恐竜の体の色復元は可能か(上) 化石記録におけるデータの限界 どうしてパンダは白と黒のユニークな外見を持ったのか── 。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、最新研究について報告します。 ----------
パンダ独特の白黒模様について
道教のシンボルともいえる陰陽 ── 生物を含む森羅万象は全て光と影の如く、二つの対極に位置する気によって支配されているとか。白と黒の模様は我々の日常いたるところに存在し、特別なたたずまいを備えている。時には哲学的でさえある。勧善懲悪、そして極をなすハーモニー。碁盤に並べられた石は白黒でなければ決まりが悪い。アイスクリームはバニラとチョコレートの「ミックス」に限る。(モノクロの単色なアイスクリームは邪道だと、あえてここでは言わせていただく。)こうした大小さまざまな事象の全は陰陽のなせる業か。 この特別な存在といえる白黒パターンだが、生物 ── 特に脊椎動物種 ── においても時々見かけられる。 例えば現在、中国の限られた山岳地域に生息している「ジャイアント・パンダ」。つい最近上野動物園でも雄のリリーと雌のシンシンの交尾が確認されたとか。近いうちに赤ちゃんパンダが誕生するかもしれないそうだ(こちらのニュース参照)。パンダの独特の「白黒模様」は、多数の生物種をさしおいて、幼稚園くらいの年頃の子供たちからも、すぐに認識されるほどの強いイメージ性や不思議な魅力が備わっているようだ。
さてパンダの白黒パターンだが、具体的に(1)「体全体でどのように表れているのか?」そして進化上、(2)「その起源はいつどのように起きたのか?」この二つの質問にすんなりと答えられる人はそれほど多くないはずだ。正直にうちあけると、私も今回改めて調べてみるまでほとんど知らなかった。 愛くるしいパンダの体における白黒の模様がどのように表れているのか、ここで今一度、あらためてじっくり観察してみよう。こちらの写真(Image1)をみてみると興味深いことにほとんどの個体が非常に似たような模様をしていることが分かる。まず黒い斑点が目の周りに縁取っているのがわかる。両肩から前足全体もほぼ真っ黒だ。後ろ足も長靴をはいているようにほぼブラックで統一されているようだ。黒一色でまとめられた小さな耳も忘れてはならないだろう。 私は念のため他のパンダのイメージもいくつかチェックしてみた。動物園や野生の個体の写真はネットを通して簡単にたくさん見つけられる。映画「カンフー・パンダ」、「パンダ・エキスプレス」(アメリカでよく見かける中華料理チェーン店)のロゴ、パンダの名前を冠した某お菓子会社のチョコレートのパッケージ等々も忘れてはならない。パンダのイメージはわれわれの周りにあふれかえっている。そして私の知る限り、その全てが上記の白黒パターンでほとんど全て統一されているようだ。校庭に並んでる大勢の学生服を着た中学校の生徒のイメージが浮かんでくる。 一生物進化研究者からみて、この事実は非常に興味深い。他の白黒模様を備えた哺乳類といえば、例えばディズニーの映画「101匹ワンちゃん」で有名なダルメシアンという犬種やアフリカのシマウマなどが思いつく。しかし個体レベルで比較してみると、こうした動物の白黒模様はかなり「いいかげん」 ── 学術的に言えばかなり高いレベルでの個体差が存在する ── といえる。パンダの白黒パターンとは根本的に、DNA的に、何かが違うように私には映る。以下にもう少しパンダの模様の謎について探ってみたい。うまくいけば生物進化史上最大のミステリーに「白黒」つけられるかもしれない。