【解説】大企業過去最高益、日本に還流せず 日本に投資を取り戻す、政府、財界の案は?
■神田財務官報告書――大企業のもうけ、日本に戻るのは半分
為替相場急変のたびに、メディアにお目見えする神田眞人財務官。7月2日、私的懇談会の報告書を発表し「大企業が海外で稼いだ利益が日本に戻ってきていない」ことを指摘した。報告書は第一線で活躍するエコノミストや大学教授らとまとめたもので、「国際収支を切り口として日本経済の課題を洗い出し、課題克服のための処方箋を議論した」というものだ。 2023年度、日本の経常収支は過去最大の黒字を記録したが、内訳を見れば貿易収支もサービス収支も赤字。黒字だったのは「第一次所得収支」、つまり、海外子会社からの配当や海外投資から得る利子などにとどまった。ただ、そのもうけについても神田財務官は、こう指摘した。「非常に心配なのは(海外で得たもうけの)多くが海外で再投資されている。少なくとも海外直接投資による収益の半分は、日本には戻って来ないという状況」。国内向けの投資は“日本が投資対象としての魅力に乏しいことを反映し、長らく停滞してきた”(神田氏)という。
この結果、生産設備が古いまま→新しい技術の活用につながらず→取引先等、中小下請け企業も含めて生産性や賃金が低迷した、と指摘している。 さて、処方箋は何か? 神田氏の報告書で挙げられた一つは「期待収益率」を高めること。日本に投資したら、高いリターンが得られると認識されることだ。そのためには、これまでの「既存の雇用や企業を守ること」重視の政策を変え、市場から撤退すべき企業は撤退させ、「成長分野への労働移動(転職)」を円滑化する。また、AIやデジタルなどの先端分野・高付加価値分野での国際競争力を取り戻すために、人への投資や技術開発を促す政策も重要だとした。
◇急がないと結構しんどい
7月いっぱいで退任が決まっている神田財務官。「一時的な失業率の上昇を許容して、労働移動して、高い賃金を出せるところ、成長する企業にリソース(人材、資金)が行くようにするのは、そんなに簡単じゃない。政治構造が、どうしても持続可能性がない企業を守るようなところにバイアスがかかる仕組み。けれども、さすがにこれをやっていたら、もう日本が持たない」。現政権もその方向で進めているとの認識を示した上で、「急がないと結構しんどい。急いでやれば、かなりの勝算はあると思う」と話した。