「子どもがネットで何を検索したか、学校は把握できます」 学習用デジタル端末の新機能は有用?プライバシー侵害? 生徒の悩みも性的指向も浮き彫りに
担当課長は、思いも寄らない事態に困惑しているようにみえる。すると、渡部教育長が後を引き継ぐ形で答弁に立った。 「今おっしゃったことは非常に課題だと感じている。いったん、ここの件に関しては白紙に戻す」 教育長の言葉は、事実上の方針撤回を意味する。上川さんはほっとした。 「ぜひお願いします。ちょっと人権にもとるところがあると思います」 翌月、同じ文教常任委員会で、検討結果を担当課長が報告した。新しいフィルタリングソフト「i-FILTER(アイ・フィルター)」は予定通り試行的に導入するものの、「検索履歴やアクセス履歴を見る機能は利用しない」と明言した。 ▽あなたは見られてもいいのか 検索履歴の問題性は、性的少数者のプライバシーにとどまらない。例えば、子どもが「離婚」という言葉を検索していたとしたら、両親の不仲を心配している可能性が考えられる。 学習用端末とはいえ、子どもたちが使うのは学校だけではない。文部科学省は、端末を持ち帰って家庭学習でも利用することを奨励している。自宅でこっそりと、自分の悩みを検索ボックスに打ち込む子どももいるはずだ。
上川さんは私にこんな問いかけをした。 「検索履歴はその人の内心そのもの。それをのぞくのは、子どもを一人の人間として尊重していないことと同じ。あなたは、あなたが何を検索しているかを見られてもいいのですか」 ▽「検閲」の意図はなかったが ではなぜ、世田谷区教育委員会はこの機能を導入しようとしたのか。 担当課長は、一人一人の履歴を「検閲」する意図はなく、子どもが全体としてどんな言葉を検索しているかを集計する狙いだったという。その結果を踏まえ、「検索にふさわしくない言葉」を子ども同士で話し合ってもらうなどして、ネットリテラシーの向上を図るつもりだったという。 ただ、その過程で誰がどんな言葉を検索したのかも「結果的にひもづいてしまう(把握できる)」と委員会で答えていた。 この機能の利用を見送った理由を改めて尋ねると、こう語った。「(区議会での)意見を踏まえた。子どもを傷付けてしまうことになるかもしれない。必ずしも必要ない機能だということ」