芥川賞の妻と太宰治賞の夫、小説家夫婦の新婚生活は?婚約中に発した吉村昭の「おれは無一文同然だ」発言が事実通りで…
◆吉村が外食したときには 編集者らと外で会食した吉村は、帰宅すると、「今夜の献立は何だった?」と必ずきいた。それが好物のものだと、一食損をしたような気分になったらしい。 〈亭主は丈夫で留守がよい、と言うが、わが夫は毎日家にいて、三度三度の食事と晩酌を楽しみにしているので、手のかかることこの上ない。〉(「別冊文藝春秋」昭和51年9月号) なんのためにお手伝いがいるのだと言いながら、吉村が望んでいたのは愛妻の手料理だった。 「君は、小説さえ書いていればいいのだ」と言われて結婚した津村にとっては、これほどの誤算はなかったかもしれない。 ※本稿は、『吉村昭と津村節子――波瀾万丈おしどり夫婦』(新潮社)の一部を再編集したものです
谷口桂子