「別姓にしたい」事実婚を切り出され、口走った婚約破棄 選択的夫婦別姓の議論、決着願う夫婦
失われない家族の一体感
2人は、書類上は夫婦でない事実を、3人の子にも双方の両親にも、長く言わなかった。言う必要がなかった、と言った方が2人の感覚に近い。 95年に2度目の離婚をした後、何かの必要で戸籍謄本を取った幸夫さんの父が事実婚に気づいた。だが、父は「お前たち、とんでもないことをしているな」と苦笑いするだけだった。 婚約当初は「両親に猛反発される」と直感していたが、隠していたことを怒ったりしなかった。「離婚してもしていなくても、家族の生活が何も違わなかったからじゃないですかね」と幸夫さんは言う。 夫婦別姓で親子の姓が違う場合、「子どもがかわいそう」とも世間では言われている。しかし、3人の子どもたちは何の疑問も持たず、いじめられることもなく育った。
娘の姿を見て衝撃、積み残された課題
2017年春、次女の真実さん(22)は高校に進学し、由香里さんが顧問を務める放送部に入部した。3年生だった19年、「真実の家って、親子で名字違うのおもしろいよね」という部員の声をきっかけに、「うちって変ですか?」という題名の8分間の映像を制作した。 両親や海外出身の先生、選択的夫婦別姓を求める裁判の原告になったソフトウエア会社「サイボウズ」の青野慶久社長にもインタビューした。「好きな人と自分らしく結婚したいだけなのに」との思いをナレーションに込めた。 作品は、NHK杯全国高校放送コンテストの全国大会に出場した。ただ、大ホールで上映される上位4点には入れなかった。真実さんは「3000人の高校生に知ってもらえる機会だったのに」と悔やんだ。 その姿に、由香里さんは頭をがつんと殴られたような衝撃を受けた。「結婚式を挙げてからの30年間、いつか実現するだろうと思ってきたけど、何もしてこなかったなと」 20年には長女が結婚し、夫の名字になった。1週間くらいたった頃、泣きながら「自分の名前のお葬式をしているみたい」と由香里さんに電話をしてきた。「娘の代まで、問題を積み残してしまった」という思いに駆られた。