「別姓にしたい」事実婚を切り出され、口走った婚約破棄 選択的夫婦別姓の議論、決着願う夫婦
「氏名は自分そのもの」
女性の側からは、どう見えていたのか。 女性は、高校教諭の内山由香里さん(56)。 長野県中部の山あいにある筑北村の出身で、子どもの頃から「女らしさ」を求められた。家では意見をすると「口答えするな」、学校でも良い成績を収めると男子から「女のくせに」と言われることに反発を覚え、大学進学とともに上京した。ただ、4年時の教育実習で教員のおもしろさを感じ、長野で英語科教諭になった。 結婚を校内の同僚らに報告すると「小池さんになるんだね」「仕事は続けるの?」と言われた。結婚するって、私の姓を変えることなんだ――。 「家の外では、何百回も何千回も『内山さん』と呼ばれてきた。名前は自分そのものだから、私が私じゃなくなる感じでした。だから、相手にも変えてほしいと思わない」 事実婚を提案することにはためらいもあった。でも、平和教育に熱心で、女性教諭からも「家事をやってくれそう」と評判のよかった幸夫さんには「リベラルな考え方だから、受け入れてくれるだろう」という信頼もあった。「だからショックでした。『ザ・田舎の男』と思いました。考え方がガチガチなんだなって」
3度の結婚、3度の離婚
そんな幸夫さんの転機は、ひょんなことだった。 婚姻届が出されてから2カ月くらいして、書店でたまたま、ある本を見つけた。民法750条は、結婚する夫婦のどちらかに改姓を「強制」していること、改姓する側のアイデンティティーを侵害することが書かれていた。 「こういうことだったのかと。それまでは凝り固まって、姓を変えられることを意識してみようともしなかった。考え方が変わったと思いました」 <2人が結婚式を挙げた91年から、法相の諮問機関・法制審議会で選択的夫婦別姓の導入を巡る議論が始まっていた。96年には法制審が制度導入を答申した> 2人は姓を巡り、たくさんケンカをした。当初はわかり合えなかったが、思いを伝えて、理解をしようとする。そうした対等な関係が家族の結束を強めた。由香里さんはそう感じている。 長男、長女、次女の3人の子に恵まれた。長男が生まれた後に離婚し、その後も2度、妊娠が分かると婚姻届を出し、出産後に離婚という手続きを繰り返した。いわゆる「ペーパー離婚」だ。こうすることで、3人の子は幸夫さんと同じ「小池」になった。由香里さんには「内山」姓を残すこだわりまではなく、「小池」を選んだのは字画の問題だった。