「別姓にしたい」事実婚を切り出され、口走った婚約破棄 選択的夫婦別姓の議論、決着願う夫婦
次の世代に残さないために
由香里さんは、選択的夫婦別姓の導入を目指す団体に連絡を取り、議会への請願などの活動を始めた。 <96年の法制審の答申を受けて法務省が作成した民法改正案は、自民党の保守派の反対で国会に提出されないまま、四半世紀が経過した。野党の多くは選択的夫婦別姓に賛成で、賛否を問う各種の世論調査では賛成が過半数に達している> 「結婚する夫婦の96%が夫の姓を選んでいる。これが半々になれば、男性も女性がどんな苦しみや不便を抱えているかを理解すると思います」。幸夫さんはそう言う。「私も頭では分かっているんですけど。でも、改姓を経験していないから本当の意味では分かっていません」 2人は、選択的夫婦別姓の導入を求めて国を相手取った集団訴訟の原告に加わり、24年3月に提訴した。 <選択的夫婦別姓の導入を求める集団訴訟はこれまでに第1次、第2次が起こされ、最高裁は15年と21年、選択的夫婦別姓を認めない民法の規定を「合憲」と結論づけた。いずれの判決も「国会で論ぜられ、判断されるべき」だとしている> 由香里さんの同僚の30代男性は4年前に結婚をして、妻の姓に変えることにした。しかし、男性の両親が反対し、祖母は泣いて訴えた。結局、妻が折れて男性の姓になったという。 「結婚って、みんなに祝福されるから幸せなのに、素直に喜べないんですよ」。そう言う同僚の思いも背負い、裁判に臨む。 <24年6月、経団連は選択的夫婦別姓の導入を求める提言を発表した。自民党は翌月、3年ぶりに党内での議論を再開している。次の首相を事実上決める自民党総裁選では、9人の候補のうち、選択的夫婦別姓の導入に賛成する小泉進次郎氏が「1年以内」に民法改正案を国会に提出すると明言しているが、賛成派の候補者は多くない> 「誰が首相になっても、30年近く法案を出さずに議論してこなかったことに決着をつけてほしい」と語る幸夫さん。 社会を変えるためには、待つだけでなく、行動しなければ――。娘たちに背中を押される形で、時代を一歩前に進めるためにできることをしていくつもりだ。【深津誠】