「2歳児の6割がスマホを利用」「子守歌は“寝かしつけアプリ”」 急増する1歳からの「スマホ育児」の是非とは【石井光太×汐見稔幸×高見亮平】
育児においてスマホやタブレットの力を借りるのは、今や珍しいことではない。しかし幼い子どもがスマホ画面にくぎ付けになっている光景に、どこか不安がよぎるのもまた親心であろう。作家の石井光太さんは、保育園から高校まで、200人以上の先生たちへの取材をもとに『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)を上梓。その本に賛同したという、幼児教育の専門家・汐見稔幸さん(一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事)と、現役ベテラン保育士の高見亮平さん(全国保育問題研究協議会事務局長)が、「スマホ育児が子どもに及ぼす影響」について語り合った。 【写真】保育園から高校まで、200人以上の教師に取材を重ねた衝撃の現場報告 (昨年に開催された新潮社・本の学校ウェビナー【汐見稔幸先生と、現役保育士たちで考える<AI時代の乳幼児たちの悲鳴> 『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』刊行記念イベント】の内容をもとに記事として再構成しました) 【前後編の前編】 ***
石井 今日は教育学の専門家である汐見先生、そしてベテラン保育士の高見さんと、幼児教育の現場で起こっていることについてお話しできたらと思っています。まず『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』をお読みになり、昨今、デジタル化しつつある幼児教育の現状をお二方はどうお感じになっていますか。 汐見 子どもの遊び方が、昔と今では大きく変わりましたよね。昔は外に出て自然と遊ぶのが当たり前で、草木があったり、石があったり、水があったり、その辺にあるものを活用して「もっと面白くできないか」と知恵をしぼっていたものです。自然の世界は、遊んでいた木が突然折れてしまうとか、せっかくつくった遊び場が雨に濡れて使えなくなってしまうとか、思うようにいかないことも多く、コントロールできるものではない。そういうリアルな偶然の中に身を寄せながら、生きるスキルを身に着けていったわけです。 それが1990年代頃から、次第に子どもが外で遊ばなくなってきました。道路が舗装され、公園でできることも制限され、自然に囲まれた中での「偶然との出会い」がなくなってしまった。その代わりに、子どもの遊び場はテレビゲーム、インターネット、そしてSNSへと移っていったんですね。つまり、人間がつくった世界、誰かがつくった物語が、子どもにとってのリアルとなってしまった。石井さんの新刊は、こういう問題を議論するきっかけをつくってくれたと思います。 高見 保育の現場にいる立場としても、時代ごとにそのような問題を強く感じてきました。VHSが普及したときには子どもが「ビデオ漬け」になると問題視され、それが「ゲーム漬け」「ネット漬け」と続き……。デジタル技術の発展とともに、その都度新しい保護者の悩みが生じてきたんですよね。 その一方で、今の保育現場で起きていることは、これまでの問題とは事情が異なる気がしています。というのも、教育のICT(情報通信技術)化が促進され、GIGAスクール構想がうたわれる昨今ですから、個々人の問題に留まらず、社会全体としてデジタルに依存しようとしている現状があります。そういう背景のもと、保育園でもタブレットで植物を撮影、観察したり、出欠をスマホアプリでとったりするのが普通になってきている。石井さんの『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』でも、子守歌を歌ってくれるという「寝かしつけアプリ」などが紹介されていましたね。これで現場の負担が減ったり、利便性が向上したりするというのは、何か失っていくものがあるように感じるんです。社会全体としてデジタルに移行しつつあることで、これまでの「ゲーム漬け」「ネット漬け」とは質が違う危機感を抱いています。