「2歳児の6割がスマホを利用」「子守歌は“寝かしつけアプリ”」 急増する1歳からの「スマホ育児」の是非とは【石井光太×汐見稔幸×高見亮平】
スマホ育児の善悪
石井 1歳児の3分の1、2歳になると6割近くがスマホを利用し始めているという国の統計データもあります。おそらく保育士の現場感覚ですと、スマホ利用率はもっと高いでしょう。私はスマホが必ずしも悪いものとは思いません。ただし、幼児の発達において、スマホが良い影響を与えるところと、悪い影響を及ぼすところとがあるのは確かです。それについては、拙著『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』で細かく示したつもりです。ここにあることを大人がきちんと把握して、上手に使いこなしていればいいのですが、現実的にはなかなかそうなっていないと思っています。 高見 それはまさに多くの保育園が悩ましく感じていることで、保護者会でもよく問題としてあがっています。現場の保育士としては小さい子どもがスマホを見ていることに違和感を抱きながらも、忙しい保護者を追い込んでしまうのではないかという心配もあり、「使わないで」とは言えない状況です。家庭環境もそれぞれ異なる中、園として「こうすべき」という共通の答えはなく、保護者一人ひとりと一生懸命向き合っているところですね。 汐見 私はスマホを育児に取り入れること自体は、それほど大きな問題だとは思っていなくて。歴史を振り返ってみても、ラジオが出てきたときには「字を読まないで聴くだけなんで頭が悪くなる」なんて言われたものですが、今思えばそんな単純な話ではありませんでしたよね。テレビやネットが出てきたときも同様の批判は巻き起こりましたが、だからといってそれまでできていたことができなくなったなんてことはなく、実際はその度に人間は適応して、生活は豊かになっている。 問題なのは、そのどれかに依存してしまうケースです。人とコミュニケーションをとったり、外で遊んだりと、色々な体験の中の一つとしてスマホを見る時間があるのなら問題はないと思うのですが、いわゆる“嗜癖”(しへき)のような形で、「何時間もスマホばかり見ている」という子どもが増えてくると、これは大きな問題になると考えています。今のゲームやネットは嗜癖の誘惑にあふれていますから。 石井 これも『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』で示したことですが、小さいころからスマホとともに育っていると、コミュニケーション能力や言語活動の発達に明らかな支障が出るという可能性を指摘した論文もあります。かなり驚くべき数値でした。脳が健全に成長していくには色々な要素が必要だと思うのですが、デジタルに限らず、何か一つに偏ってしまう嗜癖は問題の本質の一つといえそうですね。スマホを使わせるか、使わせないかの二項対立での議論ではなく、今の時代、使わないという選択肢をとるのはなかなか難しいからこそ、こういう科学的な根拠のあるデータをきちんと親は知っておく必要があると感じています。