ラ・リーガのアンチフットボールに見るFC町田ゼルビアの可能性。“黒田流スタイル”は根付くのか。それを判断するのは、チームが勝てなくなった時だ
カネがあるなら使えばいい
つまりは、サポーターが心の底から「ともに生きたい」と思えるクラブかどうか、ではないだろうか。今シーズンのJリーグで、良きにつけ、悪しきにつけ話題をさらっているFC町田ゼルビアについて思いを巡らせば、最終的にはそこに行き着く。 【画像】小野伸二や中村憲剛らレジェンドたちが選定した「J歴代ベスト11」を一挙公開! プロスポーツクラブとは、監督や選手のものでも、ましてやオーナーのものでもない。ファン・サポーターのものだ。日頃からチームを支えてくれている彼らの存在を抜きにして、クラブ経営は成り立たない。 言うまでもなくそれは、メディアやSNSの論争の道具でもない。「高校サッカーの延長線」などとフィジカル志向の強いスタイルを揶揄し、スローインやPKの際のボールへの水かけなどが盛んに取り上げられるが、異物を条件反射的に吐き出すような報道や、生産性の欠片もない誹謗中傷の数々には、正直うんざりしている。 Jリーグ加盟から10数年。新興クラブの町田にしてみれば、すべてはJ1に定着し、自らの存在価値を示す最善の方法を選択したに過ぎない。だからこその、なにをおいてもハードワークを求める黒田剛監督の招聘であり、対戦相手を辟易とさせる、あきれるほどの勝利至上主義なのだ。 しかも彼らは、そのスタイルを貫き、初挑戦のJ1で堂々と優勝争いを演じている。中山雄太、相馬勇紀という現役の日本代表選手を獲得した夏の補強を、「カネの暴力」などと否定的に捉える向きもあったが、カネがあるなら使えばいい。プロクラブが勝つために投資をするのは自明の理。非難するとすれば、むしろ新参者の後塵を拝する老舗クラブの不甲斐なさだろう。 FCバルセロナに象徴されるように、スペインのラ・リーガでは伝統的にボールプレー、すなわち流麗なパスワークをベースとするクラブが主流を占めてきた。ファンの多くが求めるのも、エンターテインメント性に富んだスペクタクルなサッカーだ。 そんななかで異彩を放つのが、ホセ・ボルダラス監督率いるヘタフェである。ひと言で表現するなら、「アンチフットボール」。ハイライン&ハイプレスを土台に、ファウルも辞さず、泥臭く相手の長所を叩き潰すスタイルを苦々しく思う者は、スペイン国内にも少なくない。 ヨハン・クライフを信奉し、かつてベティスやバルサなどで指揮を執ったキケ・セティエンはその筆頭格で、「あれはサッカーじゃない」とこき下ろし、試合後に握手を交わしたことが一度もないほどボルダラスを毛嫌いしていた。 それでもボルダラスは、アンチフットボールで結果を残した。2部時代の2016-17シーズンからヘタフェの指揮を執ると、1年で1部に返り咲かせ、昇格1年目の翌シーズンは8位に大躍進。さらに18-19シーズンには5位にまでチームを押し上げ、EL(ヨーロッパリーグ)出場権を手に入れる。旋風は欧州の舞台でも衰えず、翌年にはELでベスト8入りの快挙を成し遂げてみせるのだ。 付け加えるなら、インテンシティという部分で、ラ・リーガのレベルをワンランク引き上げた功績も見逃せないだろう。 ちなみに、ボルダラスもかつてはクライフ信者のひとりであった。彼がヘタフェでスペクタクルではなく結果を求めたのは、バルサやレアル・マドリーの10分の1程度と言われるクラブの年間予算を鑑み、限られた戦力でいかにして1部で生き残るか、その最善策を選択したからに他ならない。 それはそのまま──リーグ内における予算規模の違いはあれ──、現在の町田の歩む道にトレースされる。 結果、ラ・リーガにおいて“ボルダラス流スタイル”はひとつのブランドとなった。20-21シーズン終了後に一度はヘタフェを去った指揮官を、クラブは23年に再び呼び戻しているが、1部の常連となったいまでは「ヘタフェ=ボルダラス」というイメージが、すっかり定着した感がある。