大幅利上げでインフレ抑制も 成長犠牲で綱渡りのトルコ 谷村真
エルドアン大統領の「利下げでインフレ率が下がる」との意向を受けた政策により、通貨リラの下落とインフレが加速したトルコ。軌道修正が奏功するが、予断は許さない。 ◇経済分野でも独自路線 ロシアのカザンで2024年10月中旬に開催されたBRICSサミット。見慣れない顔ぶれが多かったが、トルコのエルドアン大統領もその一人である。北大西洋条約機構(NATO)加盟国ながら、西側諸国に対抗する枠組みとされるBRICSの場に姿を現すのは異例であるが、エルドアン大統領としては国際政治のあらゆる場でトルコの存在感を示し、得意な外交分野で独自色を出したいという思惑であろう。 さて、エルドアン大統領の独自色は外交政策にとどまらない。近年、経済分野でも独自路線を強く打ち出した結果、インフレ率の急上昇と大幅な通貨安に見舞われた。トルコは歴史的に高インフレに見舞われることが多いが、21年初めごろより、それまでの信用拡大策の影響に加えて、コモディティー価格の上昇や為替の減価によりインフレ率が加速し始める。 標準的な経済理論に従うと、インフレ抑制に向け政策金利を引き上げるのが常套(じょうとう)手段だが、エルドアン大統領の「利下げでインフレ率が下がる」という独特な意向を受け、中銀は21年9~12月に利下げを実施する。その結果、通貨リラの為替レートは大きく減価し、為替減価に伴う輸入物価上昇がインフレを加速。将来にわたって高インフレが継続するとの観測からリラへの信認が低下し、為替が減価するという悪循環が続いた。 さらに、政策金利は22年以降、累計5.5ポイントも引き下げられた。利下げの悪影響を軽減するため、トルコ政府は外貨準備を使った為替介入や、外貨からリラ預金への移行を促進する目的で為替差損を補填(ほてん)するリラ預金保護策、信用の伸びを抑制する数多くの細かな規制などの奇策を導入した。こうした中で迎えたのが、23年5月の大統領選だった。