大幅利上げでインフレ抑制も 成長犠牲で綱渡りのトルコ 谷村真
20年末に1ドル=7リラ台だった為替レートは、大統領選時点で20リラ付近に下がっており、インフレ率は一時、前年比で86%にも達した。しかし、こうした逆風にもかかわらず、野党がまとまりを欠いたことなどから、大統領選ではエルドアン大統領が辛くも再選を果たした。エルドアン大統領が経済安定化のために打った手は、元副首相でウォール街の金融機関での勤務経験もあるシムシェキ氏の財務相への指名だった。 ◇シムシェキ財務相の手腕 シムシェキ財務相のリーダーシップの下、金融政策の正常化へとかじを切る。大統領選時点での政策金利は8.5%とインフレ率をはるかに下回っていたが、中銀は23年6月に6.5ポイントの大幅利上げを実施し、リラ預金保護策の段階的縮小を含めた非主流派の政策を見直すことを明らかにした。政策金利はその後、24年3月にかけて50%にまで引き上げられた。 同月の地方選挙で与党連合は歴史的敗北を喫するが、その背景に高インフレに伴う生活困窮など国民の不満があったことから、引き続きエルドアン大統領はシムシェキ財務相の経済安定化路線を支持している。国際通貨基金(IMF)が24年10月に公表した審査リポートで、政策転換が「経済危機のリスクを顕著に低下させた」と評価するように、トルコの各種経済指標の動向からはすでにマクロ経済安定化の兆候が確認される。 先に述べた通り、高インフレと為替の減価が同時に発生していたため、この関係性を断ち切ることが重要である。中銀は対ドルでの実質リラ高(対ドル下落率をインフレ率未満にすること=為替レートの増価)にコミットした。トルコの為替市場は、外国人投資家がどの程度リラ資産に投資したいのか、また居住者が貯蓄をどの程度リラで保有したいのかという二つの要因の影響を大きく受ける。 まず、外国人投資家の視点では、トルコは人口構成が若く、欧州への地理的近接性から自動車産業などの製造業が盛んな国である。また、ドローン製造やアフリカなどフロンティア市場で活躍する建設企業など多様性に富む経済構造を持ち、成長のポテンシャルは高い。しかし、近年の非主流派金融政策によって、外国人投資家は一旦証券投資の多くを引き揚げていた。