“パックはアラサー以降”は今や昔…若年層にも浸透したシートマスク タイパ・成分重視で“朝パック”を習慣化、市場も急拡大
田中みな実やMEGUMIら美容家が発信してトレンドとなった”パック美容”。その市場規模は23年に649億円と22年比35%増加し、乳液(614億円)の市場を上回っている(インテージ調べ)。かつてはパック自体の装着時間が長く、日々のスキンケアに取り入れるにはハードルが高かったが、今は忙しい“朝”にも当たり前にパックできるよう様変わりしている。ユーザーの美容習慣や価値観は、どのように変わっていったのか? 今から10年前、「サボリーノ」を開発して”時短シートマスク”のムーブメントを起こしたBCLカンパニーの担当者に話を聞いた。 【画像】藤本美貴、夫・庄司智春と美容トーク「シートマスクを貼ってあげています」
■以前は「パック=面倒臭い」で、”スペシャルケア”のイメージが強かった
トレンドの美容法として広がり、今では1~3分という短い時間で済ませられるようになったシートマスク美容。一昔前は1回10~15分ほど“付けたまま”にしておくことが当たり前で、少しでも動くとマスクが顔から剥がれ落ちてしまう。そのため「時間に余裕がある人」「年齢を経てケアが必要な人」「美容感度が高い人」など、限られた人が行う”スペシャルケア”のイメージが強かった。 「シートマスクをすること自体、お仕事や家事・育児などで忙しい方々には、なかなか難しかったと思います。また以前は、チャックを開けてフェイスパックを取り出すと2枚くっついてくることもあり、取り出すまで時間がかかったり、衛生面が気になり『同じところに何度も手を入れるのは不衛生だから嫌だ』という声も伺いました」(スタイリングライフ・ホールディングス BCLカンパニー 商品開発本部 副本部長 齊藤久美子さん/以下同)
■『朝の身支度を短くしたい』との願望からサボリーノが誕生 社内からは反発も
この「シートマスク=面倒臭い」というイメージを刷新し、「時短」「使いやすい」と印象付けたのは、今年発売10年目を迎えた時短パック『サボリーノ』だ。最短1分シートマスクをつけておくだけで洗顔、スキンケア、保湿下地までのケアを済ませることができ、以前は”スペシャルケア”だったシートマスクを、”毎日の習慣”として落とし込む流れを作った。齊藤さんは開発当時を振り返り『サボリーノ』は、同社の女性社員たちの”率直な願望”から生まれたものだったと開発当時を振り返る。 「社内の20代中盤~後半の女性社員が、”自分たちが欲しい商品を開発する”という目的で集まっていました。当時は働き方改革が施行される前で、遅くまで残業して、飲み会をして、家に帰って、数時間寝て起きて……という生活をしていた人が多かった。そうすると、朝のメイクが本当に面倒臭くて。『朝の身支度をとにかく短くしたい。1分でも長く寝ていたい』という思いから商品開発がスタートしました。夜お酒を飲むと翌日むくみますし、『むくみもクマもシミも取りたい。メイクノリも良くしたい』など様々な問題がありました。そうした問題を解決するためにシートマスクにたどり着き、様々な機能を詰め込みました」 以前のシートマスクは、水分メインのパックが多くあったが、そこに美容成分を多数入れ込み、洗顔からスキンケア、保湿まで一気にできるように開発。このような多機能のシートマスクは、当時画期的なものだった。 「自分たちが”こういうのがあったらいいな”というところから開発に入りましたが、最初は『シートマスクを着けて1分でメイクが完成できたらいいよね』という話をしていました。メイクが完成するのは無理でも『ファンデーションぐらいならできるかも』という話になって、ファンデーションの液が入ったものを試作してみたこともありました。そうしたら肌色の液がべちゃべちゃと落ちてきて失敗…(笑)。いろいろ試行錯誤した結果、『洗顔とスキンケアと保湿下地の要素は入れられるね』というところに落ち着きました。 不織布は薄いタイプや少し硬いタイプなど、たくさん種類があります。朝シートマスクしながら歯磨きするとか『貼りながら何かをしたい』と考えると、やはり伸縮性があり、どんな動作をしても落ちないようにしたい。そこは不織布を選ぶときに大事にしたポイントです。伸びが良く、液含みも貼りつきも良い……そうしたバランスの良い素材を探して採用しました」 『サボリーノ』の開発は、“スキンケアはステップを重ねることこそ正義”という社内の常識を覆すほどのインパクトを与えた。当時は洗顔→化粧水→美容液→乳液……と順番をふんでスキンケアするのが常識で、それをパックだけで済ませてしまうとは言語道断! と強い反発もあったという。 「弊社は石鹸など洗顔の商品が主力だったので、社内の反発も強く『洗顔は別にしたい』という意見が多かったです。サボリーノ開発チームの中でも『やっぱり洗顔はやめる?』と言い出す人たちもいました。でも反発があるということは、そこは絶対に面白いポイントなので、『洗顔は絶対に入れたほうがいいな』と。社内の意見は心に留めつつも、そのまま推し進めました」