「トイレ行ってきていいですか」も言えなかった――活動再開から1年、渡部建50歳の生きる道
自粛前は、とにかくワンマンでした
持ち前のMC力で座を湧かせる講演は評判を呼び、次第にオファーが増えた。同時にたくさんの本を読み、リサーチを続けるうちに、独自のコミュニケーション論が形作られていった。 講演活動が軌道に乗ってくると、「本を出さないか」と声をかけられることもあった。 出版された著書のタイトルは、『超一流の会話力』。 上梓のニュースに、ネットには批判的な言葉がふたたび溢れた。 「いや、わかります。批判はごもっともです。このタイトル、ツッコミどころ満載ですよね。自分がどの面下げて本を出すんだという思いもあったんですけど、編集者の方に『この本を読んで、すごく楽になる人がたくさんいると思う』とおっしゃっていただいて。あ、そうか、何人かでも助かる人がいるんだったら、出してもいいのかな、と。もちろん自分がどんなテーマや言葉を選んでも、いろんなご意見をいただくことになる。そこはバッシング覚悟で、もしも自分が救われる人のためになにかできるなら、という風に思い直したんです」
「『僕が超一流だ』と言ってるわけじゃないんです。超一流の人たちがやっていることって、実は真似できる簡単なことがありますよ、ということを伝えたかった。最初に僕が提案したタイトルは、『話さない力』。でもそれだとまた意味を持つ、とアドバイスをいただいて。『あくまでも暴露本ではなく、ビジネス本として売りたい』という出版社の方々の意見で、あのタイトルに決まりました。僕は出版についてはまったく素人ですし、全部お任せしました」 以前の自分なら、こうはいかなかった。仕事の選び方、企画の内容にいたるまで、全部自分で決めなければ気が済まなかったと振り返る。 「とにかくワンマンでした。僕の人生だから僕にやらせてくれ、というのが正論だと思いこんでいたんです。意見にも耳を貸していなかったと思います。これからはどんな仕事も、まずはまわりの意見を聞くことをルールにしようと。だからタイトルに関しても、これでよかったと思います。あいつ、何上から目線でそんな本出してるんだよっていうお声もたくさんいただいたんですけど、実際に手に取っていただけたら、意味をわかっていただけると思っています」 自粛前からの経緯をテーマにして、本を書かないか。 そんなオファーも、何度かあった。 「『立ち直る力』のような企画もいただいたんですけど、すべてお断りしました。ただ今回の本に関しては、今後僕が講演活動をメインに働いていくにあたり、何をしているのかを明確にお伝えできればと考えたんです。当然、世間の皆さんの意見はごもっともだと思いますし、でも、そればかり気にしていたら、生活していけませんから、そこはちょっとお目汚しをしてしまいますが、出させてください、という感じですね」