泥遊びが嫌いで“虫に触れない”保育士も… 保育の現場で今何が起こっているのか【石井光太×汐見稔幸×高見亮平】
社会全体にデジタル化の波が押し寄せ、「デジタルネイティブ世代」が育児や保育を担う時代が訪れている。こうした激変のさなか、保育の現場では何が起こっているのか。全国200人の保育士や教師に取材し、『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)を上梓した作家の石井光太さん、幼児教育の専門家・汐見稔幸さん(一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事)、現役ベテラン保育士の高見亮平さん(全国保育問題研究協議会事務局長)の3人が、今求められる保育の在り方について議論した。 【写真】保育園から高校まで、200人以上の教師に取材を重ねた衝撃の現場報告 (昨年に開催された新潮社・本の学校ウェビナー【汐見稔幸先生と、現役保育士たちで考える<AI時代の乳幼児たちの悲鳴> 『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』刊行記念イベント】の内容をもとに記事として再構成しました) 【前後編の後編】 ***
石井 育児や保育の面でもデジタル化が進む中で、保育園には今どんな役割が求められているのでしょうか。『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』でも示しましたが、保育士の先生方は両極化の板挟みになって苦しんでいることが多いように感じました。先生方にしてみれば、子どもたちはプライベートで人と関わる機会が減り、家でも動画やゲームばかりになっているのだから、せめて園は「大勢の人と自由に伸び伸びと遊べる空間」にしたいと思っている一方で、子どもの数が減っているがゆえに、「英会話やプログラミング教育を取り入れないと園児を集められない」と悩んでいました。 高見 保育園の定員割れが加速していて、いわば“生き残り戦争”のようなことが起こっています。そのため保護者のさまざまなニーズに応えようとする保育園が増えているわけですが、そこに迎合することが、子どもにとっては本当に良いことなのか。ただ「子どもが来てくれるようになるから」という安易な理由で、子どもの体験が変わってしまっていいのかという危惧があります。 汐見 保育園で週に3回、ちょこっと英語をやったって、身につくはずはないですよね。本当にやりたいのなら、英語塾に行ってきちんと取り組めばいい話で、「園でしかできないこと」は何なのかを考える必要があると思います。外で子ども同士で遊ぶとか、自然の中でおたまじゃくしを育ててみるとか、子どもが生き生きと過ごせることこそが重要だと考えます。