泥遊びが嫌いで“虫に触れない”保育士も… 保育の現場で今何が起こっているのか【石井光太×汐見稔幸×高見亮平】
泥遊びができない保育士
石井 自然の中での遊びといえば、デジタルネイティブである今の若い保育士さんには、自然の中で遊んだ経験があまりない方が増えているように思います。たとえば、今の20代前半の先生方は、子どもの頃からスマホを手にして育ち、コミュニケーションはSNSで行い、学生時代の後半はコロナ禍で過ごしています。どちらが良いか悪いかではなく、ベテランの保育士の感覚とはかなり違いがあるでしょう。 汐見 私が代表を務めている保育に関する学びの場「ぐうたら村」では、保育士志望者に森の中で自然と直に触れ合う体験をしていただいているのですが、道中で見かけたカエルの卵を触ることができたのは、10人いたうちの1人だけ。そういう子たちが保育士になり、親になっている。まずは保育士自身が自然を楽しいと感じ、その姿を見せないと、子どもが自然の面白さを感じることはできないでしょう。こういう視点で保育士を養成していくことも必要だと思うんですよね。 石井 『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』では、泥遊びを汚いと感じてできない先生や、他人とご飯を食べるのが怖いという先生の話を紹介しました。「なんで人間が直接絵本を読み聞かせする必要があるのか。スマホで聞かせればいいんじゃないか」という先生もいるのだとか。これについて、ベテラン保育士の高見さんはどう見ていますか。 高見 たしかに保育士全体として、汚れるのが嫌だとか、触ったときの感触が嫌だという方は増えた印象です。あとは虫が苦手だという方は多いですよね。加えて、園の敷地内であっても、園庭で自然体験をしようとすると、常に地域住民のクレームと隣り合わせですから、本当に自然体験がしづらい時代になりました。 石井 外遊びだけしていればいいというわけではありませんが、そうした体験でしか獲得できない能力や発達というものはあります。現代社会の中では嫌でも英語やプログラミングを学ぶ機会がある一方で、外遊びの体験は確実に失われている。ならば、保育園や学校は、現代社会にすでに十分あるものを与えるのではなく、むしろ失われている体験を積極的に組み込んでいかなければならないような気がします。そうしないと、人としての総合的な成長、発達は難しいのではないでしょうか。 高見 それを一部の園がやっているだけではダメですよね。 汐見 おっしゃる通りですね。社会全体がそういう方向に向かっていかないと。