図書館に行くよりもずっと集中できる…齋藤孝が「1日に平均2回」は立ち寄る"最強の作業スペース"
■「俯瞰視点」を持つと気づきやすい 気づきの習慣と関連して、気づきやすい視点について触れておきましょう。 少し前に、サッカー日本代表の試合を中継で見ていて、もどかしい思いをしたことがあります。画面には、ある選手が疲れすぎたのか、足がもつれている様子が映っていました。 相手チームはその選手を狙って攻撃を仕かけてくるのですが、まったく対応できません。すぐに選手を交代しなければ、失点するのは時間の問題です。 でも、なぜか監督は選手を代えません。結局、チームはズルズルと失点を重ね、そのまま敗北してしまいました。 私のような一般のサッカーファンが問題に気づいたのですから、中継を見ていた人のほぼ全員が同じように気づいていたと思います。では、なぜ選手交代が行われなかったのでしょうか。 もちろん、我々にはわからないチーム事情があったのかもしれません。監督にもっと深い意図があった可能性も考えられます。 でも、最大の理由は、私たちが気づきの起きやすい環境下で試合を見ていたことにあると思います。テレビ中継の視聴者は、試合を俯瞰視点で見ています。プレーの振り返りをVTRで確認することもできます。そこで修正ポイントに気づくことが多いのですが、実際のピッチに立つと視点が限定されるので、気づかないことが多いのです。 ■井上尚弥選手の試合で「特等席」を入手したが… 私には、ボクシング世界3階級制覇王者である井上尚弥選手の試合を生で観戦したという、ちょっとした自慢があります。何しろ井上選手は、日本ボクシング史上最高傑作ともいわれる逸材です。この目にファイトを焼きつけたいと考え、思い切って大枚をはたき、リングサイドのチケットを購入したのです。 当日、指定された席に着いてすぐに気づきました。私の席は位置が低すぎて、リングの反対方向が見えません。むしろ、もう少し安価な席のほうが、リングから多少離れる代わりに上から見下ろす形になり、全体が見やすいのです。 「ちょっと、向こう側が見づらいな……」 そう思いつつ観戦していた私に悲劇が訪れます。井上選手がKOパンチを繰り出したのですが、それは私がいるリングサイドとは反対側でした。なんと、決定的瞬間を見ることができなかったのです。 KO直後、会場全体が大きく揺れ、地鳴りのような歓声が起こりました。その盛り上がりには感動しましたし、井上選手の勝利には大満足でした。けれども、なんとも消化不良のまま会場を後にすることになりました。 帰宅後、配信の映像を見て、「なんだ、こっちのほうが全然見やすいじゃないか」と思ったのでした。 ---------- 齋藤 孝(さいとう・たかし) 明治大学文学部教授 1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。 ----------
明治大学文学部教授 齋藤 孝