「J3レベルではない」逸材ピッチで号泣…“右利きの名波浩”が悔恨、昇格叶わず悲劇の幕引き【コラム】
2019年に27億1100万円あった売上高は2023年には14億5600万円へと減少
ところが、長期政権が終焉を迎えたあとは必ずと言っていいほど、歪みが起きる。コロナ禍の2020年は布啓一郎監督が就任。パリ五輪代表の羽田憲司コーチも参謀として加わったが、「選手を育てながら勝つ」という難題に取り組んでいる真っ只中で9月に解任され、長く松本山雅でコーチや編成部長を務めた柴田峡監督があとを引き継いだ。が、柴田体制も長く続かず、2021年6月に解任となり、名波監督が就任したが、流れを引き戻せないままJ2最下位に沈んでJ3に降格となった。 そこからの3年間は菊井が過ごした紆余曲折の時間でもある。クラブが「名波・霜田体制」を選択したということは、反町時代とは異なるボール支配力のある攻撃的チームを目指したということだ。実際、霜田体制の2年間は間違いなく得点力アップという成果が見られた一方で、失点はなかなか減らなかった。先制しても追いつかれたり、逆転されたりするケースが何度も見られ、勝ち点を伸ばし切れなかった。毎年のように「J2昇格候補筆頭」と目されながらも2位以内に入れず、ここまで来てしまった。 その期間の戦い方と収穫、課題をしっかりと検証し、今後の方向性を明確にしなければ、J3を脱出するのは難しくなる。監督、選手の去就もあるが、J3での4年目となる来季をどう戦うのか。それをクラブはいち早く打ち出していくべきだろう。 ここ5年間でクラブの経営規模も下降線を辿り、2019年に27億1100万円あった売上高は、2023年には14億5600万円へと減少してしまった。そうなると補強に投じられる資金も減る。J3に長くいればいるほどスポンサーが離れる可能性も否定できず、この正念場をどう踏みとどまるかが肝要だ。今年4月に就任した小沢修一新社長の下で、今一度、結束していかなければ、明るい未来は見えてこない。そこは地元出身者として改めて強調しておきたい点だ。 今後については不安もあるが、日本屈指の熱狂的なサポーターの存在を力にして、前へ進んでいくしかない。できることなら菊井にはチームに残ってほしいが、彼が去ったとしても違ったスターが出てくればいい。今季の悔しさを味わった浅川や安永らには山雅の歴史を変えるべく、飛躍を遂げてほしいものである。 [著者プロフィール] 元川悦子(もとかわ・えつこ)/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。
元川悦子 / Etsuko Motokawa