わいせつか芸術か。アメリカで急増するアート検閲から表現の自由を擁護するNPOの活動を追う
「本気の議論」には計算された妥協も必要
検閲は、A.I.R.ギャラリーの展覧会でキュレーションを担当したシュヴァルツにとって身近な問題だ。彼女が2008年にイェール大学の卒業制作として発表したプロジェクト《Untitled (Senior Thesis)(無題[卒業制作])》は、激しい議論を巻き起こした。この映像作品を作るため、彼女は毎月自らに人工授精を行ってから自然由来の堕胎薬を摂取するという、9カ月にわたるパフォーマンスを行っている。彼女はそのプロセスを「非常に長くて退屈なものだった」と語っているが、各方面から注目されてコンテンツが「バイラル化」する初期の例となった。この作品は最終的に卒業制作展から外され、大学当局から「創造的フィクション」というレッテルを貼られている。 当時NCACの支援を得られたら心強かっただろうと、シュヴァルツは言う。「あのとき私は本当に孤独でした。困難に1人で立ち向かっていた22歳の私に、こういう団体が擁護の手紙を書いてくれたら、どんなに力づけられたかと思います」。彼女は、A.I.R.ギャラリーでの展覧会でNCACの資料を展示し、同団体が提供しているサポートについてアーティストに知ってもらえるようにしている。 キュレーターが検閲との戦いの最前線にいるとすれば、アーティストは塹壕の中で戦っていると言えるかもしれない。イバラとシュヴァルツに、その後ほかにも検閲を受けたことがあるか聞くと、両者ともこの記事で紹介しているケースほどひどい検閲は経験していないと答えた。しかし、事件は後を絶たない。イバラは、20年のキャリアを通じて常にソフトな検閲と向き合ってきたという。それは多くの場合、美術館が作品のそばに掲示する警告文の形をとっている。こうした処置を見てきた彼女が辿り着いたのは、「性的な内容の展示は、アートの世界ではいまだに大きな不安の種なのだ」という結論だ。 シュヴァルツは、イェール大学での「恐ろしい経験」(殺害予告まで受けたという)以来、あからさまに自分の身体を使った作品は作っていない。物議を醸したことで注目された彼女だが、自分は「すぐに折れるタイプ」だと話す。とはいえ、戦略的にそうしている一面もあるようだ。彼女は、自分が重要だと考える問題について幅広い議論を促すためには、計算された妥協が必要なこともあると考えている。レイプやフェミニズム、リプロダクティブ・ライツに関する自身の活動について、シュヴァルツはこう思いを述べた。 「私はこうした問題について、本気で議論したいと考えています。だからこそ、ほかの人々の意見や、私が知らない事情、たとえば展示施設が置かれた微妙な立場などについても考慮したいと思っています」