「嫌い」の感情にふたをするほど閉塞感が増す...現代に必要な“上手な悪口”
誰にでも好き嫌いはありますが、「好き」だけでなく、「嫌い」という感情も大事にすることで、人生がより豊かなものへと変わっていきます。多摩大学名誉教授の樋口裕一さんが語ります。(取材・文:辻由美子) 【図】不安の度合いの3つの分類 ※本稿は、『PHPスペシャル』2024年3月号より内容を抜粋・編集したものです。
「嫌い」の感情も大事にしよう
今の社会は「好き」が肯定される風潮にあります。自分の好きを追求する「推し活」はトレンドになっていますし、「多様性を認めよう」を合言葉に、さまざまな「好き」が公認されるようになりました。 一方で、「嫌い」を表明するのには、勇気が必要です。公の場で「私はこれが嫌いです」と言えば、微妙な空気になりかねません。その結果、私たちは「嫌い」という感情にふたをするようになりました。 でも、何となく嫌な感情は残りますから、モヤモヤしたものがたまっていく。それがネットのSNSなどで匿名の投稿になり、ひどい中傷や個人攻撃に変わってしまうのではないでしょうか。 匿名のネットで「嫌い」という感情を吐き出すのは、公的な場で「嫌い」を言うことができなくなった裏返しと言えます。 また、「嫌い」という感情を否定すると、「嫌っている自分が悪いのだ」という自己否定にもつながりかねません。私は今こそ「嫌い」という感情を、堂々と表明すべきだと思っています。
自分の「嫌い」を見つめることで、人生の方向性が見えてくる 「嫌い」を言うメリットは、じつは大きいのです。「嫌い」と公言するためには、なぜ嫌いなのかを分析し、自分を客観視しなければなりません。嫌う理由を必ず問われるからです。 私は音楽家のマーラーの曲が大嫌いですが、「マーラーが嫌いです」と言うと、必ず「なぜですか」と訊かれます。自分はなぜそれが嫌いなのかを追求していく過程は、自分を見つめ直す過程でもあります。 つまり「嫌い」の気持ちを大事にすると、自己分析が進みます。自分の「嫌い」を知ることで、自分の価値観がクリアになり、人生の方向性が見えてきて、より豊かな人生が築けるのです。 では、どのようにして周りの人を傷つけずに「嫌い」を表明するのか。「嫌い」という感情の上手な出し方、向き合い方について考えてみましょう。