『ふつうの軽音部』ELLEGARDENは作品の象徴として選曲。原作者が楽曲セレクトやキャラクター造形を語る【クワハリ先生インタビュー】
■「バンドもの」と「人間関係もの」
――作中に登場する実在する楽曲のセレクトは、先生が普段から聴いている邦ロックの中から、シチュエーションやキャラクターに合った曲を選んでいるのでしょうか? クワハリ:そうですね。 ――鳩野が弾き語りでMr.Childrenやスピッツを歌うのに驚きました。NUMBER GIRLや銀杏BOYZだけではなく、守備範囲が広いんだな、と。 クワハリ:ああ、そうですね。鳩野って連載初期のイメージだと、割と偏屈な邦ロックファンみたいなところがあったんです。大メジャーなバンドを馬鹿にしているようなキャラ付けといいますか。でも、作品のメッセージとして、「メジャーだからダサい」みたいな考え方はよくないなと思っていて。だから「鳩野はこういう方向性のバンドは多分好きじゃないな」というキャラクターの大きな部分は変えていないんですけど、鳩野が聴きそうなバンドの中でも、特にメジャーな位置づけのバンドの曲を意識的に使いました。 ――それでいうと、鳩野のバンド・はーとぶれいくが初披露するのがELLEGARDENの「ジターバグ」というのも、ド直球な選曲ですよね。しびれました。 クワハリ:実は最初は違う曲をやろうと思っていたんですけど、「ジターバグ」は僕の中で軽音楽部の象徴的な曲なんで、最初のライブでやるのはすごくいいなと、考えているうちに思うようになったんですね。歌詞のメッセージも、作品のメッセージとすごくかぶっていましたし。 ――演奏シーンで聴いている人の心にイメージが浮かぶ演出も素敵ですね。 クワハリ:あれはイメージとしては、和歌みたいな感じなんです。といっても、最初からそう考えてやっていたわけではなくて、描いていて後からそんな気がしてきたんですけど(笑)。 ――和歌ですか。 クワハリ:登場人物が自分の気持ちをストレートに言うと恥ずかしいし、漫画的にもクサい感じになるんですけど、歌詞に乗せるとちょっといい感じになる。 ――そして歌で思いが言葉になると、心の中で過去や夢が……。 クワハリ:イメージになる、ということですね。 ――なるほど。曲に関していうと、細かいところですが、作中で演奏される曲は大体曲名がわかるように描かれていますが、9話で鷹見のバンド・protocol.(プロトコル)が演奏した曲は、聴いていた鳩野が曲名を知らなかったこともあって、タイトルが出てませんでしたよね。あのシーンは先生の中では、何か具体的に演奏した曲を決めてあるんですか? クワハリ:具体的な曲を考えていたんですが、あえてボカしたというか、「この選曲をここで使うのは勿体ないな」という感じで伏せたんです。これから先、使うシーンがあるかもしれないので、ここでも話すのはやめておきます(笑)。 ――では最後に、今後の展開について、お話しいただける範囲で伺わせてください。 クワハリ:文化祭が終わった後の展開としては、鳩野のはーとぶれいくと鷹見のprotocol.、ふたつのバンドのぶつかり合いがまず描きたい。あとは策略パート話みたいなも少し描きたいなと思っています。厘の策略面におけるライバルみたいなキャラクターが徐々に前に出てくるかもしれません。 ――軍師にはライバルがつきものですもんね。孔明に対する周瑜、司馬懿みたいな……。 クワハリ:そうそう(笑)。音楽ものとしてのドラマと、人間関係の策略みたいな話、これからもその両方をバランスよく描きたいなと思っています。 ――急接近している気がしますが、鳩野と水尾はどうなりそうですか?恋愛に発展するのでしょうか。 クワハリ:それは描いている僕にもわからないです(笑)。今の段階だと、恋愛になるまでにはまだだいぶステップを踏まないといけないなと思うんですけどね。本当に、描いていかないとわからないところが多い作品なんです。
取材・文=前田久