ネット民は「コンテンツがひどい」と訳知り顔で文句を言うが…制作者が語る、大炎上した「都庁プロジェクションマッピング」の実態
作った人に聞いてみた、東京都プロジェクションマッピングプロジェクト
そもそも論で申し訳ないが、プロジェクションマッピングとはどういうものなのか? 映写を表す「プロジェクション」と配置を意味する「マッピング」が組み合わさった映像手法の大きな概念だと石多氏。 「映写する対象と映像を意図的に組み合わせて、あたかも映写された対象自体が自発的に光や動きを持っているかのような効果を与えます」 映画は映像を平坦なスクリーンに投影するだけだが、プロジェクションマッピングの場合はそのスクリーン自体、つまり何を対象に投射するかが肝になる。 「単純な映像投映ではない。映写する側と映写される側の双方の関係性がとても重要です。リアルな物体や空間に、映像の光を交えることで、不思議で魅力的な体験を生み出せる表現なのです」 都のプロジェクトにはどのような課題があったのか。問題は規模。都庁は投影するにはあまりにも巨大で、おのずと費用もかかる。設置や周辺調整も大変だ。 正直な話、これが実現するとは思ってもいなかったと石多氏。 「昨年、実施をするという話が上がって驚いたのを覚えています。そしてこのプロポーザルの公示があり、我々としてはこれだけのインパクトのある企画であれば、ぜひ採択を受けて世界に誇れるものにしようと。紆余曲折ありましたが、画を練り、プレゼンし、なんとか協業する企業さんと一緒に受注することができました」
常設での世界最大の建物への投影面積というハードル
都庁舎という巨大な投影面積に、常設設備として、毎晩映写をする環境を整えることは想像以上に大変だったという。 「プロジェクションマッピングは、イベントとしてやるだけでもかなり大変ですし、さまざまな技術を必要とします。それが常設になることは仮設の数倍の課題が持ち上がります」 まず投影する機材が課題になった。 「これだけの建物の大きさです。プロジェクターはパナソニックコネクト社製の世界最高輝度、非常に明るい最新機器が用意されました。投影面積が広いので、そこのプロジェクターが40台も必要になりました。しかもプロジェクターは常設になります。長期間雨風にさらされますので、それに耐えうる専用の筐体が必要です。その中にはプロジェクターや温度管理をするための空調、プロジェクターの映写角度を調整・維持するための特殊な架台も置かなくてはなりません。さらに音響です。広範囲の鑑賞エリアをカバーするために11基のスピーカーが用意されました」 屋外に専用の筐体をいくつも用意して、そこに大量のプロジェクター機材を詰め込み設置、そして常時40台のプロジェクターを連動して動かすわけだ。 「単に都庁舎に投映するのではなく、これだけの数の映像を貼り合せ、さらに再生を同期させることにもハードルがあります。これを実現するには、ハイスペックな再生装置とソフトウェア、それを制御する専門の技術が必要です。そして都庁舎の細かな窓や柱などに映像が合うように映像を調整するのですが、実際の建物と対応した高精細な3DCGを用意して事前の検証も長時間行っていました」 プロ中のプロをしても、未体験のトライアルである。なにせギネス世界記録である。2024年2月25日に「最大の建築物へのプロジェクションマッピングの展示(常設)」として、ギネス世界記録に認定されたのだ。 「実際のプロジェクションをするまで、完全な映り具合やオペレーションの在り方などは見えてきません。現場に入れるようになって、そこからまたさまざまな課題が出てきます。しかし公開初日に向けて、限られた時間の中で関係者一丸となって調整していました」 都庁舎を実際に見たことがある人はわかるだろうが、集積回路をイメージしたという建築デザイン は、小さな窓も多く、かつガラスにはコーティングが施されているので、まるで鏡のような状態になっている。 「壁面と映像の映りが大きく異なっているんです。そうしたことも試写をする中での新たな課題となり、それはコンテンツ制作の難易度を上げる形で跳ね返ってきました」