巨人・菅野智之はなぜ前年4勝から劇的復活を遂げたのか? 阿波野秀幸が好調の要因を徹底解説
── 小林選手のリードはどこがいいのでしょう。 阿波野 小林は同い歳ということもあって、菅野智之という投手を知り尽くしています。後輩捕手だと、リードに遠慮が出てしまう部分があるのですが、そんなことはないし、小林も菅野の引き出しを熟知しています。それに小林は試合に出場しなくても、ベンチで投手にアドバイスを送っていましたし、よく野球を見ていました。 【戸郷翔征ら若手から受けた刺激】 ── 今季の菅野投手は、例年に比べて奪三振数は減っていますが、コントロールが抜群によくなった印象があります。 阿波野 もともとコントロールは抜群でした。今シーズンの菅野について、「打たせてとる技巧派への転身」と言う人もいますが、今年35歳。スライダーで打ちとるパターンを中心とした投球から、打者を見てストレートで押したり、変化球でタイミングを外したり、「角(かど)が取れてきた投球」という表現があっているように思います。相手の研究もあり、毎年連続して多くの三振は奪えないものです。菅野はかつて投球回180前後で、最多奪三振のタイトルを獲っています。今年達成した通算1500奪三振は、槙原寛己さんを上回るスピード記録でした。 ── それ以外に復活の要因はありますか? 阿波野 若手にも刺激を受けていると思います。4年連続2ケタ勝利を狙う戸郷翔征、2年連続2ケタ勝利を狙う山崎伊織が、3連戦の初戦を任されるなか、菅野は一時期6連戦目の日曜日に先発していました。そんな意地もあったのでしょう。カード初戦が大事な一方、カード3試合目はメンタルの強さが必要です。「1勝1敗から勝ち越す」とか「0勝2敗から一矢報いる」などの難しさがあります。また新監督の1年目というのは、アピールしなければならない。そういった部分も、菅野にとってモチベーションになったのかもしれないですね。
── そんななか、今季は着実に勝利を積み重ねていきました。 阿波野 ここまで14勝2敗ですが、中日から5勝、ヤクルトから4勝と下位チームにしっかり勝っています。それに広島には2勝0敗、阪神にも1勝0敗と上位チームに負けていません。巨人の貯金13のうち、じつに12を菅野が稼いでいる計算です。 ── 9月10日の広島戦での勝利で、江川卓さんの通算135勝に並びました。また、今季は最多勝の可能性もあります。 阿波野 200勝はともかく、通算成績や記録がひとつのモチベーションになるのは間違いないです。タイトルに関しては、過去に何度も獲得していますので、そんなに固執していないと思います。結果を残したうえで、「獲れればいいな」くらいのものでしょう。それよりも、伝統ある"巨人軍の背番号18"にふさわしい投球や投手道を極めたいという思い、さらにその姿を後輩たちに見せるということを大事にしていると思います。 ── 大混戦のセ・リーグ、最終盤にかけて菅野投手の登板が巨人の命運を握りそうですね。 阿波野 9月10日の登板は6連戦の初戦でした。先述したとおり阿部監督は「守り切る」野球を目指しています。当然、肝になるのは投手陣です。 ── 阿部監督は指揮官1年目にして、4年ぶり優勝の可能性があります。 阿波野 優勝を成し遂げた時、チーム最多の勝ち星を挙げるというのは格別なものです。たとえば、昨年優勝した阪神は、過去連続13勝を挙げていた青柳晃洋が8勝に終わりました。12勝の大竹耕太郎、10勝の村上頌樹に後塵を拝し、悔しい気持ちもあったと思います。いずれにせよ、菅野のピッチングが巨人の結果に直結することは間違いありません。優勝すれば、MVPの可能性は高くなるでしょう。 阿波野秀幸(あわの・ひでゆき)/1964年7月28日、神奈川県出身。桜丘高から亜細亜大学を経て、86年のドラフトで近鉄、巨人、大洋による競合の末、近鉄が交渉権を獲得し入団。入団1年目に、最多奪三振王(201個)、新人王のタイトルを獲得。88年、伝説となる「10.19」のダブルヘッダーに連投し悲劇を経験。89年、最多奪三振(183個)と最多勝利(19勝)のタイトルを獲得し、悲願のリーグ優勝を果たす。その後、95年に巨人、98年に横浜(現・DeNA)に移籍。98年は50試合に登板するなど日本一に貢献。2000年に現役を引退。現役引退後は巨人、横浜、中日のコーチを歴任。現在は解説者として活躍の傍ら、ジャイアンツアカデミーのコーチも務めている
水道博●文 text by Suido Hiroshi