「京都吉兆」がイタリアの学食で提供したランチの反応、世界の有名シェフ150人以上が料理した大学とは?
世界のビッグシェフたちのランチが学食で食べられる、そんなうらやましくも驚くべき大学がある。北イタリアはピエモンテ州ポッレンツォという小さな田舎町にある「食科学大学=ウニヴェルシタ・シェンツェ・ガストロノミケ」だ。 【写真】イタリアの学食で提供された吉兆の料理「キノコ御飯、ピエモンテ牛照焼丼、焼野菜、ピエモンテ牛ヅケ添え」 ■「アカデミックテーブル」という学生食堂 “食”とつくことから料理人になるための学校と勘違いされることが多いが、実際は食文化、栄養学、農業、環境問題、そして食マネージメントや食ビジネス、食品科学などなどを学ぶ専門大学として2004年に設立された。世界40カ国以上から集まった学生たちが将来の食糧生産システムに関する世界規模のビジョンを身につけ、世界の食企業はもちろん国連やNPOに巣立っていく。
そんな「食科学大学」の学生食堂は「アカデミックテーブル」と名付けられ、ただお腹をいっぱいにして栄養を満たすためだけではなく、授業で学んだことを実際に見て、学ぶ場として存在する。 たとえば料理に使われる野菜類は、大学構内にある畑で学生たち自ら栽培し、農業におけるさまざまな問題点や生産サイクルを実体験する。食料廃棄をできるだけ減らすための工夫、動物性タンパク質の摂取を減らし代替プロテインを使った料理やメニューをどのように取り入れるのかなど、食をめぐる社会問題に実際に取り組み、学ぶ現場なのだ。
■スローフードとは「おいしく、きれいで、正しく」 「京都吉兆」が、その食科学大学でランチを作るという話を聞いたのは、今年の春のことだった。日本食ブームが過熱し日本料理店が乱立、日本酒の輸入量も激増しているイタリアだが、実際に食べられるものは本物の日本料理とはかけ離れたものがほとんど。そんなイタリアで吉兆が料理を作り、食の若きエリートたちに食べてもらう。本物の日本文化を体感してもらい、未来へつなげる。そんな企画だった。
今年で創立20年を迎える「食科学大学」の設立を主導したのは、ピエモンテ州ブラに本拠地を置くスローフード協会の創立者カルロ・ペトリーニ氏だ。食科学大学の学長でもあるペトリーニ氏とは、食の安全や食文化に興味を持つ人であれば、イタリア人に限らず神様のように憧れる存在だ。 ローマ法皇からヴァチカンに招聘され、環境問題対策についてアドバイスを求められた唯一の一般人でもあるというすごい人なのだが、日本ではペトリーニ氏はもちろん、そもそもスローフード協会についてあまりよく知られていない。「伝統グルメ料理をゆっくり食べる=スロー」と思われがちだが、本当のスローフードの意味は「おいしく、きれいで、正しく」。