「京都吉兆」がイタリアの学食で提供したランチの反応、世界の有名シェフ150人以上が料理した大学とは?
「おいしい」は言わずもがなだが、各個人が持つ文化的背景によっておいしさはさまざまであるという事実を受け入れ、尊重すること、そして単に味だけでなく、身体にとってもおいしいものかどうかを考え、追求するということ。「きれい」とは季節外れの野菜や果物を、遠い外国から運ぶなどして環境を汚さないものであること。そして「正しく」とは搾取や強制労働などのない正しい生産方法であること、という意味だ。 1986年にブラで設立されて以来、生物多様性と食の伝統を保護し、環境的かつ社会的な側面から持続可能な食を目指す活動を続け、現在は世界150カ国10万人以上の会員を持つ巨大組織となっている。
私がイタリアに住み始めてすぐの頃、スローフード協会の幹部にインタビューをしたことがあった。 「毎日ていねいにパスタを手打ちしたり、伝統料理を作らなければならないなら、主婦たる女性の社会進出を妨げるのではないですか?」。当時、スローフードについての知識が浅かった私はこう質問した。すると帰ってきた言葉は印象的で、20年以上経った今も忘れられない。 「毎日立派な料理を作り食べる必要はないんです。会社帰りに買ってきたチキンと野菜をさっとゆでて、塩とオリーブオイルで食べる簡単な夕食でいい。ただ、その鶏肉と野菜は、オリーブオイルは、どこでどんなふうに栽培され、生産され、あなたの手元にやってきたのか、それを考える時間をもつ。自分の身体の中に入れる食品について立ち止まって考える、それがスロー、という意味なんです」
■世界の名だたるシェフたち そんなスローフード哲学の元に運営される食科学大学の「アカデミックテーブル」は、2013年に企画がスタートして以来、世界の名だたるシェフたちがやってきてランチを料理した。 世界の食の中心をフランスやイタリアからスペインへと書き換え、分子料理で世界に名を馳せた「エル・ブリ」のフェラン・アドリア(2013年)、イタリア・モデナの「オステリア・フランチェスカーナ」でミシュラン3つ星と「世界のベストレストラン50」で1位を獲得する一方、廃棄対象食品を使って生活困難者に料理を無料で提供するなど、貧困とフードロスという社会問題に取り組むマッシモ・ボットゥーラ(2014)、フレンチの大御所、自然から料理を創作する料理人と称されるミッシェル・ブラス(2015)などなど、そうそうたる顔ぶれのシェフたち合計150人が学生たちのために腕を振るった。