「京都吉兆」がイタリアの学食で提供したランチの反応、世界の有名シェフ150人以上が料理した大学とは?
普段であれば何百ユーロもする料理を提供するシェフたちが、材料費は1人につき5ユーロまでという縛りの中で料理をしたというのも、食ビジネスがどのように持続可能性を追求していけるかを学ぶうえでの大切なポイントだったという。 ■「京都吉兆」が特製ランチを提供 コロナ禍とウクライナ戦争などの影響でストップしてしまった、有名シェフによる「アカデミックテーブル」だが、2023年にようやく再開を果たした。その後、2024年度の先陣を切ったのが、我らが日本「京都吉兆」の徳岡邦夫総料理長とそのスタッフたちだった。
本物の日本の味を体験してほしいという熱意を胸に現地入りした吉兆チームは、時間のない中で、地元ピエモンテ州の食材をどう日本料理に仕上げていくかという課題に頭を悩ませた。 試行錯誤の末に完成したのは「キノコ御飯、ピエモンテ牛照焼丼、焼野菜、ピエモンテ牛ヅケ添え」。赤身と脂肪部分がキッパリと分かれていながら柔らかく味わい深いのが特徴のピエモンテ牛は、サシの入った和牛に慣れた日本の料理人にとって未体験ゾーンの食材。
だが徳岡氏は「脂身の少ない上質なピエモンテ牛は、健康志向がより重視される現代で今後注目していくべき食材の1つのはず」と判断。調理法を工夫し、和の味に仕立て上げた。 本番当日、学食に食べにやってきた学長のカルロ・ペトリーニ氏は、一口食べて「参りました!」の表情。 室町時代から伝わる汐出汁の技術を応用した「鶏汐出汁のスープ 卵締め」のおいしさには、多くの学生たちが「これはなんですか?」「どうやって作ったの?」と徳岡氏を質問攻めにするシーンも。
同日の午後には、日本酒とみりんを紹介するトークセッションも行われ、会場となった講堂を予定よりも大きいものに急遽変更するなど、食科学大学の学生たちの日本料理への興味の深さが垣間見られた。本物の日本の味、文化の一部を正しく伝えられた素晴らしい機会となった。 ■食を総合的に学ぶ動きが日本でも この食科学大学が生まれた2004年当時、他に例を見ない試みとして世界から注目を浴びた。そして20年が経った今、世界各地で同様の動きが急増している。日本でも2018年に京都の立命館大学が食マネジメント学部を設立。食の総合学部としては国内初となった。
そして現在、東京でも東京女子大学がイタリアの食科学大学の教授陣を招いたり、東京学芸大学は辻調理師専門学校と提携して「食と環境」をテーマにした研究と教育を進めるなど、食を総合的に学ぶ動きはますます加速している。 食とは、単においしいまずいを語る存在ではなく、生きる物すべての命をつなぎ、地球環境に深く関わる問題であることが再認識され始めた今、正しい知識を身につけた人材が各界から求められているからだ。そこで学んだ若者たちが世界に羽ばたき、明るい地球の未来を築いていってくれることを願うばかりだ。
宮本 さやか :ライター