「ランボルギーニがランボルギーニであるために心血を注ぐ」|開発責任者が語る、ハイパフォーマンスEV「テメラリオ」の在り方
「どうしても独自で開発する必要があったんだ。ウラカンが大成功を収めた以上、あらたなマイルストーンを刻むために、そしてピュアな進化のために、競争が激化する一方のマーケットにおいては、よりユニークなパフォーマンスとデザインのスーパースポーツを創造しなければならなかったからだ」 【画像】その名も“テメラリオ”。スペイン語で“桁外れに勇敢”という意味をもつランボルギーニのハイパフォーマンスEV(写真22点) 開発責任者であるルーベン・モールは筆者にそう熱く語りかけた。ところはペブルビーチ18番ホールに設けられたランボルギーニのラウンジ。モントレー・カーウィークの人気イベント「モータースポーツ・ギャザリング@ザ・クエイル」でウラカン後継モデルのワールドプレミアを終えた翌日のことだった。 その名も“テメラリオ”。スペイン語で“桁外れに勇敢”という意味であり、もちろんランボルギーニの伝統に則って闘牛の名にも由来する。 ウラカン後継と書いたが、そんな役どころには収まりきらないモデルであった。何しろ完全新設計(グループ内の4リッターV8とはまるで異なる)のV8“ホット”ツインターボエンジンに前2機+後1機+3.8kWh電池というプラグインハイブリッドシステムを加えたパワートレーンはなんと920cvというシステム総合出力を誇っている。ウラカンV10の最終スペックは640cv。そう騒いだのが嘘のように巨大な数字で、エンジン単体でも800cv&730Nmというから、それだけですでにアヴェンタドールウルティメのV12さえ上回った。実にリッターあたり200cv。 「パワースペックを誇るだけなら簡単で、既存のV8でも可能だった。けれども新たなチャプターを開くためには数字だけではダメだ。エモーショナルであることにこだわった。だから自社設計とし、最高回転数は1万回転を狙った。何よりエンジンサウンドが素晴らしく、他のV8とはまるで違う」ちなみにこのV8エンジン、サンタアガタ久しぶりの設計&生産だ。 システム構成も、そしてスペックも限りなくレヴエルトに近づいた。けれども動的なキャラクターがまるで異なっているとルーベンは続ける。 「レヴエルトはブランドのステートメントカーだ。一方でテメラリオはよりドライバーズカーに仕上がった。ホイールベースは短く、車体もコンパクトゆえドライバーとのエンゲージ性に優れている。フロントのeアクスルの基本構成はレヴエルトと同じだが、リアモーターはレヴエルトのeアクスルではなく、クランクシャフト直結のアクシャルフレックスモーターにメカニカルDCTとした。加速フィールもダイレクト、レヴエルトよりもRWD感が強い。レヴエルトもそうだったけれど、独立したフロントeアクスルによる4WDには無限の可能性があり、制御次第ではフロントモーターの存在を消すこともできる。要するにRWDのように走らせることができて、しかも安全性は4WD並みだ。つまり誰でも別次元に引き上げられたリミット性能に迫ることができる。ドライビングを心から楽しめるモデルに仕上がった」 0-100km/h加速は2.7秒、最高速は340km/h以上。スペックが示す通り、アヴェンタドール以上のパフォーマンスを誇る。一方でサウンドやフィールなど官能性にこだわった。ラップタイムやスペックではなく、エモーショナルなドライブ体験こそ重要だと考えたからだ。フラットプレーンV8エンジンの特性を、音だけでなく振動でも体感できるようエンジンマウントやボディに工夫を施したという。さらにはサイレンサーボックスや排気バルブ、サウンド・シンポーザーなどを駆使し、ドライブモードごとにキャラの違う音響チューンを行った。1万回転付近でのサウンドとバイブレーション、そして力強さは、これまで味わったことのないレベルも達したとルーベンは胸を張る。 「技術的な進化をやめるわけにはいかない。ヘリテージを大切にしつつ、新たなチャプターを開き続けていかねばならない。つまり、今一度成功したければ挑戦し続けていく必要があるということだ。その時代によって置かれた環境や必要とされる技術、マーケットの状況はすべてが違う。だからエンジニアリングアプローチはその都度、適切な手段を選んでいく必要がある。もちろんブランドのあり方を守りながらね。ランボルギーニに見える、ランボルギーニだと感じる、ランボルギーニだと確信する。そのために、ピュアエンジンだろうがモーター付きだろうが、あるいはピュアバッテリー駆動であろうが、そして重かろうが軽かろうが、心血を注いでいるんだ。乗ってもらえば、この10年で最もファンタスティックな車だと分かるはずだ。ドラマチックな加速とハンドリング、自然吸気のようなエンジンフィール、そしてレブリミッターでもまだプッシュする力強さ。すべてが別次元のスーパーカーに仕上がったと思う」 話を聞いているうちに、飾られていた個体に無理やり乗り込んで走らせたくなってしまった。テストが楽しみでならない。ある意味、レヴエルトの時以上に、だ。彼らはまたしてもドリームカーを生み出したのであった。 文:西川 淳 Words: Jun NISHIKAWA
西川 淳