「廃業と隣り合わせ」から抜け出すために 伊豆大島の製油所が椿油を核に描く観光再生策
伊豆大島の高田製油所(東京都大島町)は、島の特産の椿油を希少な製法で作りながら、ホテルも運営して観光業を支えています。4代目の高田義土さん(48)が継いだ当時の経営は順調でしたが、2013年の大規模土砂災害や、2020年からのコロナ禍が打撃となり、椿油もホテルの売り上げも大幅に下降しました。高田さんは「廃業と隣り合わせ」という危機感を持ちつつ「ここが踏ん張りどころ」と前を向き、椿油のECサイトのリニューアルや、ホテルの全面改装などの積極投資で、観光再生への力強い一歩を踏み出しました。 【写真特集】旅館・ホテル業界を成長させた後継ぎたち
1億円超だった総売り上げ
「挫折といえばまさに今。曽祖父から始まった椿油産業は、常に廃業と隣り合わせにあります」。高田さんは深刻な顔で打ち明けました。 高田製油所は1929年に創業。最初は椿油の加工だけでなく、牛乳煎餅の製造などにも手を広げていました。 1965年ごろからの離島ブームで、1972年の来島者は約84万人とピークを迎えました。高田さんの祖父・八郎さんは船着場の元町港で売店を始め、10室を備える「グリーンホテルたかた」をオープンし、観光業に力を入れます。 工場は八郎さん、売店は義土さんの父で3代目の一善さん、ホテルは叔父・叔母が切り盛り。離島ブームが去っても、ダイビングの需要があり、高田さんが事業を継いだ2009年当時、会社の総売り上げは1億円を超え、椿油の売り上げだけで5700万円に達しました。 高田製油所の椿油は創業以来、玉締め機を使用して低圧力で時間をかけて絞る「玉締め絞り」で作られています。ほとんどの工場が使う搾油機・エキスペラーとの違いは生産スピードです。エキスペラーなら全自動で実を油にできますが、玉締め機は絞るのは自動であるものの、金型に入れたり、蒸し器に砕いたものを入れたりするのは手作業も必要になります。 それでも玉締め機にこだわる理由は、椿油の質です。ゆっくり時間をかけて絞るため、椿油の風味や成分が損なわれず、良質の部分のみを搾ることができるといいます。高田製油所の椿油の価格帯は1100円(40ミリリットル)。会社は2人の従業員と営んでいます。