世界最高峰の心臓外科医が留学後に受けた「屈辱」、「白い巨塔」にはびこっていた“排除の力”とは
ほんのわずかなミスが患者の生死に直結しかねない心臓外科医。そんな心臓外科医として、14年連続で「The Best Doctors in Japan」に選出されている渡邊剛氏ですが、その活躍の裏側には、留学先のドイツで恩師にかけられた言葉と、帰国後に日本で告げられた驚くべき言葉があるといいます。 *本稿は渡邊氏の著書『心を安定させる方法』から、一部抜粋・編集してお届けします。 ■ドイツ留学時に恩師が授けてくれた「ある言葉」
「Selbst ist der Mann(人に頼るな)」 これはドイツ留学を終え帰国する際に、師であるハンス・G・ボルスト教授が授けてくれた言葉です。当時32歳だった私は、「孤独でもがんばれ」と言われたのだと思いました。 ハノーファー医科大学に入った直後の私は、孤独でした。のちに私の実力が認められ、よき仲間となるのですが、最初は「この日本人は、ここに何しに来たんだ」と言わんばかりの冷たい視線を向けられ、嫌がらせもされたものです。
そんな経験をしていた私を見ていたので、「日本に帰ってもつらいことはあるだろう。孤独でもがんばれよ」と言ってくれたのだと思い込んでいたのです。 実際、帰国後に金沢大学附属病院でそんな状況に陥り、ボルスト教授の言葉を思い浮かべもしました。でも60歳を過ぎた現在、ボルスト教授が授けてくれた言葉の本当の意味は、そうではなかったと理解しています。 先生は、こう伝えたかったのでしょう。 「答えは自分のなかにしかない。自分がなすべきことは自分だけが知っている。人を気にせず自分を磨け、そして強い気持ちを持って信じろ」
みなさんを形作るのは、みなさんが歩んできた道のりです。その道は幸せなことばかりではなく、むしろ孤独で長く険しい道でしょう。 私もドイツで、豚の心臓相手に来る日も来る日も手術の練習を繰り返しました。この暗闇は、本当に晴れるときが来るのだろうか。こんなことをしていて、本当に自分が目指す医師になれるのだろうか。 周りに味方が誰もいない環境で、自問自答を繰り返し、心が沈みそうなときもありました。ですが、そのおかげでいまがあります。