「廃業と隣り合わせ」から抜け出すために 伊豆大島の製油所が椿油を核に描く観光再生策
島の産業を未来につなぐ
高田製油所の椿油は、島民が原料の椿の実を副業として拾うことで成り立ちます。高田さんはなるべく椿油の価格は変えたくないといいます。 「値上げをすれば、売り上げは増えても販売量が減り、椿の実を今ほど必要としなくなる可能性もあります。実が売れなくなれば島の人々は拾わなくなり、ひいては椿油の製造ができず、島の文化や仕事が失われる可能性もあるのです」 納められた実は一定の質を保っていれば、ほとんど購入しているそうです。質の良い実の見分け方を島民に伝えるのは大変ですが、それでも続けるのは、島の文化を絶やさないためといいます。 「祖父の時代から椿油の生産量を20トンでキープしています。島の油屋が減って、島全体では椿の実を買い付ける量は少なくなっており、実を拾ってくれる人も減っています。椿油の売り上げや生産量は島の問題に左右されます。島の産業をどう未来へつなぐのか、常に考えています」 高田製油所は椿が咲く約5万平方メートルの山も所有し、草刈りだけで年約200万円ほどの支出になります。自社での管理が難しいため、観光用の公園として町の管理下に置いてもらっています。高田製油所は島の人々や町からの協力を得ながら、産業を紡いでいるのです。
ユーザーの評価に背中を押され
逆風からの反転攻勢に出る高田さんの支えは、ユーザーから商品をほめてもらえることです。 「2015年ごろ、店に英国在住の日本人から国際電話があり、『東ティモール人の友人が高田製油所の椿油を髪に塗って気に入ったので、喜びと感謝を伝えたかった』と伝えられました。縁もゆかりもない東ティモールの人が、うちの商品に喜んでくれていることがうれしかったです」 ラグジュアリーホテルのアマンのバイヤーからも2015年秋に電話があり、「こんなに良い椿油がなぜお手ごろな価格なのか」と質問されたそうです。今では、京都と伊勢志摩にあるアマンのホテルで高田製油所の椿油が使われています。 高田さんは椿の実の殻を、伊豆大島産のブランド豚・かめりあ黒豚の飼料として無料で提供しています。 「イベリコ豚はどんぐりを食べていることで知られていますが、椿の実の殻にもどんぐりに似た成分が含まれています。大島は豚にとってストレスのない環境を提供でき、味も格別です。温暖化の影響で漁獲量が減少している今、かめりあ黒豚が島の新たな名物となり、観光に良い影響を与えることを期待しています」 観光が盛り上がれば、椿油やホテルの売り上げにもプラスになります。椿油産業一本では難しいからこそ、高田さんは家業と島に価値をもたらすものに、惜しみなく投資する考えです。 「うちの椿油を使う人々の声があるからこそ、つらい状況でも頑張れます」 2029年の創業100年を笑顔で迎えられるように、4代目の観光再生への挑戦は続きます。