「お世辞」の驚くべきパワー!その言葉にふさわしい人間になろうという“喜び”を呼び覚ます 行動科学研究者が提唱する他者への“伝染力”
「お世辞」は喜びを呼び覚ます
あなたの期待には、強い伝染力がある。自分を信じるエネルギーがないときでも、他者が信じてくれると前に進むことができる。 2014年に公開された映画『不屈の男 アンブロークン』は、ルイス・ザンペリーニという男の半生を描いたものだ。 ルイスは1917年にニューヨークで生まれ、万引きなどの非行を繰り返す不良少年だった。父親は彼の根性をたたき直そうとしたが、無駄だった。ところが、ルイスの足が速いことに気づいた兄が、その才能を伸ばそうとした。トレーニングに励めば、ルイスは最高のランナーになれる。そう信じた兄は、それをルイスに伝えた。 ルイスは「無理だ」と答えたものの、陸上選手をめざしてトレーニングに励みはじめた。なぜなら、兄が彼の才能を信じていたからだ。 そしてついに、ルイスは1936年のオリンピックに出場した。 期待が、強い伝染力を持つ例をもう1つ挙げよう。 ある実験で、ごく普通の能力の学生が被験者となり、2つのグループに分けられた。学生を指導する教員には、片方のグループにとびきり優秀な学生が集まっていると伝えた。すると、そう伝えられたほうのグループは抜群の成績を挙げた。 2つのグループの違いは、教員の先入観だけだった。それが実際の違いを生みだしたのだ。 あなたは、自分が接する相手についてどう考えるだろうか? 何を期待するだろうか? シュテファン・クラインは、著書『幸せの科学 The Science of Happiness』(未邦訳)のなかで、ポジティブなものを期待すると、ドーパミンが分泌されると述べている。 ドーパミンは脳のシグナルを伝達する化学物質で、ポジティブな感情をもたらす作用がある。 このドーパミンが細胞から細胞へとシグナルを伝えて、私たちがどう考えるか、どう感じるか、どうふるまうかに影響を与える。つまり、ポジティブなものを期待すると、自分のふるまいが変わる。自分のふるまいは他者に伝染するため、その人のふるまいも変わる。 あなたが誰かと接しているとき、鏡(ミラー)のような働きをする神経細胞であるミラーニューロンによって相手の脳にあなたのふるまいのコピーがつくられ、そのコピーがその相手のふるまいに影響を与える。 スウェーデンのクリスティーナ女王は、こう言ったと伝えられている。「お世辞は不愉快だと思われがちですが、そうではありません。むしろ、その言葉にふさわしい人間になりたいという気持ちを呼び覚ましてくれるものです」。