「お世辞」の驚くべきパワー!その言葉にふさわしい人間になろうという“喜び”を呼び覚ます 行動科学研究者が提唱する他者への“伝染力”
私たちは、他者の言動や態度に驚くほど影響される。脳の中のミラーニューロンという細胞が、相手の動作や感情を映し出し、それを自分の中に取り込んでいくのだ。 【写真】”目力の強い”スウェーデンの研究者・レーナ・スコーグホルムさん
この「伝染」の力は、特に励ましや期待の言葉において顕著に表れる。ほんの小さな一言が、時として人生を大きく変える力を持つことがあるのだ。 行動科学的な視点から、人間関係における「トゲ」をなくして他者と生きる術に迫った『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
教えてくれた人:レーナ・スコーグホルム(Lena Skogholm)さん
行動科学の研究者。講演家、教育者。年に80回近く講演や講義を行い、スウェーデンで最も人気のある講師100人の1人に選ばれた。温かさとユーモアにあふれる語り口と、明快でわかりやすい解説には定評があり、2021年には、スウェーデンのすぐれた講演者に与えられるStora Talarpriset賞を受賞した。25年にわたり研究を続ける脳科学にもとづいた人づきあいのメソッドは、職場や私生活で今すぐ役立つツールとして、高く評価されている。本書『The Connection Code』(Bemötandekoden:konsten att förstå sig på människor och få ett bättre liv.)は、スウェーデンで発売と同時に売上ランキング上位に入り、ベストセラーとなった。国内外で話題の本となっている。
「小さな励まし」の絶大なパワー
私たちは日々、互いに伝染し合っている。また、権力のある人は、より強い伝染力を持っている。いってみれば、権力者は特大の鏡を持っているのだ。 たとえば、企業の管理職は、その役割をとおして権力を握っている。医師や教師など、権威ある職業についている人も同様だ。 とはいえ、私たちは誰でも何かしら力を持っている。それは知識や自信という形かもしれない。そのため、自分が何らかの権力を持っていることを、誰もが意識しなければならない。ようするに、他者をポジティブな形で伝染させる責任があるのだ。 たとえば、ほんのわずかな励ましの言葉がきっかけで、辛い思いをしていた人の一日がぱっと明るくなることもある。 バスの運転手で作家でもあるアモス・マカジュラは、どんな乗客もVIPとして扱うことで知られている。ある日、彼はフェイスブックに次のような投稿をした。 「もう何時間も運転しどおしだった私は、疲れきってくたくたの状態でした。何人かの乗客を降ろすためにバス停に車両を寄せたとき、そこで降りようとした女の子が、私に近づいてきて言いました。『お花をどうぞ。バスに乗せてくれてありがとう。ご苦労様です。素敵な夏になりますように』。私は花を受け取りました。温かい言葉が胸にしみて、力が湧いてきました。その女の子のおかげで、そのあとも、乗客たち全員を安全に運ぶことができました」 なぜ、アモスは乗客に好かれているのか? それは、彼がどの乗客にも敬意を持って、大切に扱うからだ。バスを運転するあいだ、アモスはいろいろな意味で力を持っている。そして、花を渡した少女も、アモスを元気づける温かい言葉をかける力を持っていた。 あなたは、自分のまわりや職場をどんな雰囲気にしたいだろうか? それを、まわりに伝染させよう。その雰囲気のトーンを選ぼう。先を見越して伝染させたいトーンのスイッチを入れよう。そうすれば、相手のミラーニューロンをとおして、そのトーンが伝染する。 自分のふるまいが相手の一部になり、相手のふるまいが自分の一部になるのだ。 世の中の大きな難題を目にすると、自分がいかに無力かを思いしらされる。それでも他者と励まし合い、支え合えば、世の中はほんの少しだけ変わる。 私自身、とても辛い経験をしたときに、思いやりに満ちた言葉をかけられたことがあった。それが大きな支えとなり、もう少しだけ頑張ってみようと思えた。また、厄介な問題を抱えていたときは、フェイスブックに投稿して励ましを求めた。誰かに応援してもらいたいときは、それを求めてもいいのだ。 私の場合は、友人のやさしい言葉が大きな力を発揮して、へこたれずに頑張るエネルギーが湧いた。他者がかける言葉が、自分の世界を創造する。たとえ社会にはわずかな影響しか与えられなくても、その言葉は個人にとって、想像以上に大きな意味がある。