年間1000人が警官に殺される米国 「銃を持つ権利」と市民と警察の間の溝
5人の警察官が犠牲となった米テキサス州ダラスの銃撃事件。12日に行われた追悼式典にはオバマ大統領も出席し、演説の中で「アメリカは分断されていない」と強調した。人種や宗教、格差など、近年のアメリカでは社会の分断がクローズアップされているが、警察と市民との間に存在する溝も、分断されるアメリカの象徴ではないだろうか。なぜ、多くの市民が警察に対して不信感を抱くのか。様々なデータや事例をもとに検証してみた。(ジャーナリスト・仲野博文) 【写真】米警官による黒人暴行事件 「息ができない」アメリカの人種と犯罪の現在
容疑者と一般人を判別しにくい「オープン・キャリー」
7日にテキサス州ダラスで発生した銃撃事件では、5人の警察官が命を落とした。銃社会としてのアメリカの怖さが改めて浮き彫りになった事件だが、ダラス市警のデービッド・ブラウン署長は11日、記者会見で「オープン・キャリー」の問題に触れ、銃を公共の場所で自由に持ち歩ける環境が凶悪犯罪の発生時に警察の判断能力を鈍らせる原因の1つになると警鐘を鳴らした。オープン・キャリーとは銃を公共の場所で人目につく形で自由に持ち歩く行為を意味し、アメリカの多くの州では権利として認められているが、銃規制からは 凶悪犯罪を助長させることになるとして、廃止を求める声が後を絶たない。銃の所持に対して非常に寛容なテキサス州で、地元警察のトップがオープン・キャリーに否定的な見解を示すのは異例だ。 「我々警察当局は最善を尽くし、(市民の銃の所持を認めた)合衆国憲法修正第2条がこれからも守られるように努めていきます。しかし、群衆の中にアサルトライフルを肩にかけた人が何人もいて、皆が発砲を始めた場合、警察が現場で善人と悪人の区別を行うのは非常に難しい」 ブラウン署長の発言を補足して説明すると、テキサス州ではアサルトライフルなどのオープン・キャリーは法律で認められており、銃規制反対派は「強力な銃を携帯することによって、凶悪事件発生時に市民が警察を支援することが可能になる」と主張するが、この慣習が警察官の瞬時の判断を困難にする と長年にわたって指摘されている。テキサス州ではライフルやアンティーク銃のオープン・キャリーはライセンスなしで認められており、今年1月からは145年ぶりに拳銃のオープン・キャリーも合法となった(銃の取り扱いに関するコースの受講と所持許可証取得が必要)。 オープン・キャリーは一部の州に限った話ではない。オープン・キャリーを完全に禁止しているのは4州(フロリダ、イリノイ、ニューヨーク、サウス・カロナイナ)と特別区となる首都のワシントンのみで、他州では程度の差はあるものの、オープン・キャリーが認められているのが実情だ。都市部に限ってオープン・キャリーを禁止している州もあるが、人目につかないように携帯する場合は、規制の対象外となるケースが多い。