年間1000人が警官に殺される米国 「銃を持つ権利」と市民と警察の間の溝
「銃を持った相手にやむなく発砲」というケースは、全体の半分以上となる283件だが、射殺された市民(容疑者も含む)の中で35人は銃もナイフも持たず、丸腰の状態であった。数年前からアメリカではパトロール中の警察官に「ウェアラブルカメラ」を着用させ、警察官による発砲や過剰な暴力に対して苦情や訴訟を起こされた際に、警察側の対応に「落ち度」がなかったことを示す証拠として、このカメラ映像を用いる動きが少しずつ進んでいる。 しかし、警察官の着用したウェアラブル端末で映像を実際に記録していたケースはわずか65件だった。ウェアラブル端末で映像を記録していても、警察にとって不利な証拠になると考えられた場合には、警察は映像の公開に消極的になるという指摘もある。ルイジアナ州バトンルージュで発生した37歳の黒人青年が射殺されたケースでは、「男性を取り押さえた際にカメラが故障した」と警察は主張している。 警察の対応に批判が集まっているのはこれだけが理由ではない。ルイジアナやミネソタで黒人男性が射殺されたケースでは、周辺の目撃者や婚約者がスマートフォンで動画撮影していたため、実際に発砲した警察官の容姿がネット上で多くの人に知られる結果となった。目撃者がいたり、発砲の様子が撮影されたりした場合には、警察はリスクヘッジとして発砲を行った警察官の氏名や階級を公表するが、多くのケースでは発砲した警察官に関する情報は非公開のままだ。7月7日までに512人が警察官によって射殺されているが、発砲した警察官の情報が公開されたのは半分以下の194件のみだ。 これらの発砲の詳細を求める情報公開請求も遺族や市民によって542件起こされているが、情報公開が認められたのは174件にとどまっている。バージニア州を拠点に、ネット上で殉職した警察官の情報を収集・公開する団体「殉職警察官追悼ページ」によると、今年殉職した警察官は7月7日の時点で59人。そのうち26人が銃によって命を落としており、その中には今月7日のテキサス州ダラスで狙撃され死亡した5人の警察官も含まれている。半年間で約60人の警察官が殉職しているが、警察官の発砲によって命を落とす人はその10倍だ。昨年は全米で990人が警察官の発砲で死亡したが、今年は昨年の記録を上回る勢いで射殺件数が増加しており、毎年1000人近くが警察官の発砲によって命を落とす現状にあまり変化は見られない。