明らかな詐欺にも関わらず、”地面師”をわずか2時間で釈放…情報操作に乗せられた警察の「杜撰で荒唐無稽な」捜査
共謀説に対する強い怒り
津波がこう憤る。 「当初、私は町田署に取引の資料や私の仕事のノートを提出し、捜査を担当した係長がそれをコピーしていました。そこには、この件だけでなく、私の海外の仕事の計画やそれにまつわる資金需要のことも書いていました。それを見た係長が、銀行から融資金を騙し取り、海外に持ち出そうとしたのではないか、と疑ったのです。『ひょっとしたら、ベトナムにカネを運ぶつもりだったんじゃないか』と。係長がそんな明後日な方向の話をしていました」 まるっきりの妄想というほかないが、それが前述した「みなで松田を責め立てたのはまずかったな」という係長の発言につながるらしい。取り調べの中で、松田にありもしない話を吹きこまれた町田署の係長は、津波の共犯説を信じ込んだ。つまり町田署は、「津波が人身御供として松田を警察に差し出したが、当人を苛めすぎたので津波が共犯だと漏らした」と見立てていたのだという。となれば被害者は銀行ということになり詐欺という事実は動かないはずだが、そこにも関心を示さない。 あまりに荒唐無稽な話である。だが、事実、いっとき地面師仲間のあいだでは「津波共犯説」が流れた。それは彼らがよく行う捜査の攪乱のための情報操作でもある。そこに当局がまんまと乗せられた結果、捜査は遅々として進まなかった。 事件の直後、主犯格の北田がみずから町田署に出頭したことは前に書いた。そのときにも「津波共犯説」を唱え、似たような話をしてきたとも伝えられる。津波の怒りはおさまらない。 「あのときは本当に悔しくて、警察署の玄関先で焼身自殺をしてやろうと思ったのは本当です。そのくらい絶望的になりました。実際、自殺を会社の弁護士の先生に相談したほどです」 津波にとっての救世主が、その顧問弁護士だった。 『「捜査当局がグズグズしているから新たな被害が…」“地面師詐欺”被害者救済のために奮闘する“大物ヤメ検弁護士”の「苦悩」』へ続く
森 功(ジャーナリスト)