明らかな詐欺にも関わらず、”地面師”をわずか2時間で釈放…情報操作に乗せられた警察の「杜撰で荒唐無稽な」捜査
Netflixドラマで話題に火が点き、もはや国民的関心事となっている「地面師」。あの人気番組「金スマ(金曜日のスマイルたちへ)」や「アンビリ(奇跡体験!アンビリバボー)」でも地面師特集が放映され、講談社文庫『地面師』の著者である森功氏がゲスト出演した。同書はすべて事実を書いたノンフィクションであり、ネトフリドラマの主要な参考文献となっている。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 不動産のプロですらコロッと騙されるのだから、私たち一般人が地面師に目をつけられたらひとたまりもない。そのリスクを回避するためには、フィクションであるドラマよりも、地面師の実際の手口が詳細に書かれた森氏のノンフィクションを読むほうが参考になるだろう。 地面師たちはどうやって不動産を騙し取るのか。森功著『地面師』より、抜粋してお届けしよう。 『地面師』連載第62回 『「振込先を間違えた」と白々しく語る“地面師”…問い詰められ逃げ場をなくした末に取った「驚きの態度」』より続く
警察はやる気がない
もとより松田が5億円を4分割した振り込みは、間違いなどではない。明らかに意図した詐欺である。相談した銀行で説明されたように組み戻し手続きで取り戻せるはずもなかった。となると、被害者にできることは警察に委ねるだけだ。だが、松田を町田署に突き出した津波は、その後の警察の対応にかなりの不信感を抱いている。こう言った。 「松田を町田警察署に引き渡したあと、松田が具体的に警察へどう説明したのかはわかりません。ただ、私たちが事情を聞かれるなかで町田警察の係長が言った言葉が、妙に引っかかりました。『あんたたち、みなで松田を責め立てたんだってな。それはまずかったな』と言っていました。その言葉の意味が、あとになってようやく理解できました」 5億円もの大金を騙し取られた津波は、まさに死にもの狂いで警察に事件の解明を訴えた。それに対し、警察の対応はいかにもやる気がないように見えた、と当時を振り返った。 「松田を連れて町田警察に行ったのが、東京に戻ってきた5月28日夕方の6時ごろだったと思います。その場で、『しっかり捜査をしてください』と伝えました。ところが係長は、その日のうちに、松田を釈放すると電話で伝えてきたのです」 津波が視線を床に落としながら、つぶやいた。 「私としては、松田を捕まえて5億円の行く先を追及すれば、多少なりとも騙し取られたカネが返ってくると思ったのです。それで、『そんなバカな、帰さないで捜査してください』と係長に必死でお願いしました。でも電話では、『分かった、分かった』と生返事をするばかりで、取り合ってくれない。係長はしまいに『もう切るぞ』と言ったきり、一方的に電話を切って、本当に釈放してしまったのです」 松田が町田署から釈放されたのは、午後8時だという。その間、町田署による松田の取り調べはわずか2時間程度でしかない。自ら出頭した北田にはまともに話を聴いていない。あまりに杜撰な捜査と言わざるを得ないのである。