「被害者の気持ちを考えてもなお、死刑には反対」米国の検事がそう語る真意は…「復讐に基づいてはならない」 今改めて考えたい「死刑」
アメリカでは2024年現在、21州が死刑制度を維持する一方、23州が廃止した。残り6州は制度を維持しつつ、執行を停止している。カリフォルニア州もその一つだ。この州のロサンゼルス地区検事を務めるジョージ・ガスコンさんは、死刑制度に反対の立場だ。 死刑囚「じゃあね…」薬物を投与される直前の言葉 刑務所長は涙あふれそうに
アメリカの「地区検事」は住民の投票で選ばれる。その権限は大きく、地域の刑事政策に大きな影響を与える存在だ。執行停止中とはいえ死刑制度が維持されているのに、死刑反対を公言している。詳しく聞いていくと、アメリカ特有の人種や冤罪の問題が、ガスコンさんの意見の背景にあることが分かった。(共同通信=今村未生) ―経歴を教えてください。 13歳の時にキューバから移住しました。キューバはスペイン語が公用語なので、言語、人種、経済的にも苦労しました。高校を中退して軍隊に所属していたときに、メリーランド大学で勉強を始め、その後、カリフォルニア州立大学のロングビーチ校に転校しました。大学に通っていた頃は高校の先生になるつもりだったのですが、給料がよかったので、ロサンゼルス市警に就職しました。ロサンゼルス市警の副署長、アリゾナ州メサ市の警察署長、サンフランシスコ市の警察署長も務めました。 ―2011年には、サンフランシスコの地区検事に就任されました。
その当時、サンフランシスコの地区検事を務めていたカマラ・ハリス現・米副大統領が司法長官に立候補するのに伴い、そのポジションが空席になったのです。当時は、現カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏がサンフランシスコ市の市長を務めており、彼が私を検事に任命しました。ハリス氏の任期だった期間が終わるまで務めて、その後は選挙に立候補して2回当選しました。そして、2020年、ロサンゼルスの地区検事に選出されました。 ―米国の司法制度では、人種差別や冤罪の問題について指摘する声をよく耳にします。どうしてそのようなことが起こるのでしょうか。 人種差別と冤罪は密接に関係していると思います。それは米国の起源に遡ります。何百年もの間、米国の経済は奴隷労働に大きく依存してきました。この国の社会的、経済的基盤は、数世紀に渡って、黒人は完全な人間ではなく、所有物という概念に基づいていたのです。1800年代には中国人労働者の移住を禁ずる法律が制定されました。日本人も第二次世界大戦中は収容所に入れられましたよね。しかし、やはり、最も苦労しているのは黒人でしょう。依然として差別を受けており、法の執行方法にも反映されています。 ―ガスコンさんは、どのような理由から死刑制度に反対するのでしょうか。