「被害者の気持ちを考えてもなお、死刑には反対」米国の検事がそう語る真意は…「復讐に基づいてはならない」 今改めて考えたい「死刑」
現在の科学では、死刑制度は犯罪を抑止しないと考えられています。それに、黒人や有色人種に対して、不釣り合いに死刑が適用されていることはよく知られていることです。私の前任者は、22~23人を死刑囚にしました。そのうち、大半は黒人でした。システムにはミスがつきものですが、もし死刑執行後に冤罪が発覚しても、取り返しがつきません。死刑制度は、起訴するにも、投獄するにも、執行するにも非常にお金がかかります。人種差別的である可能性があり、そして、取り返しのつかない間違いを犯す可能性があるとすれば、なんのためにあるのでしょうか?それに私は、公共政策は、復讐に基づいてはならないと考えています。 ―被害者遺族の感情についてはどう考えますか。 被害者遺族が「目には目を」という感情を抱くのは仕方がないと思います。それは人間の本能でしょう。私たちは、被害者が何を望んでいるか理解する必要がありますし、彼らの望みは私たちの仕事を構成する一つの要素です。しかし、被害に遭った人の怒りに基づいて公共政策を決定することはないと思います。そうすると、結局、“悪い”公共政策になってしまうと思います。 ―カリフォルニア州は死刑執行の停止が宣言されています。ただ、制度自体は廃止されていないため、現在も死刑判決の言い渡しが行われています。あなたは、死刑が想定される事件ではどのように対応していますか。
検事には非常に多くの裁量があります。私は、以前は死刑判決が出るようなケースでも、仮釈放のない終身刑を検討することがあります。 ―仮釈放のない終身刑についてはどう考えていますか。 私はこの刑罰に必ずしも賛成しているわけではありません。でも、それが、現在の法律では唯一の選択肢です。それに、仮釈放のない終身刑の場合は、仮に冤罪があった場合に、間違いを正すことができますよね。希望もなく誰かを一生刑務所で過ごさせるという刑罰なので、死刑よりも残酷だと主張する人もいるかもしれません。ですが、間違いがあったときに取り返しがつくという点で、死刑制度より可能性があることは確かだと思います。 ―米国では死刑のある州とない州がほぼ半々となっています。今後、米国の死刑制度はどうなっていくと思いますか。 米国では、おそらく10年以内、最大でも20年以内に、死刑制度はなくなると思います。2011年に制度を廃止したイリノイ州では、この年より前に死刑判決を受けた死刑囚に法律が適用されなかったため、知事が全ての死刑囚を減刑しました。先ほど述べたような死刑制度の問題点を認識する人は増えてきていると思います。アメリカでは現在、約半数の州で死刑制度が廃止されています。死刑を執行しない州はどんどん増えていくでしょう。そして、それが積み重なっていくのです。 【取材後記】