帝王切開での出産直後に、同じ手術台で乳がん切除。産後は、希望と地獄の両方を抱いているようだった【妊娠期がん経験談】
共感し合い、メンタルを支えてもらった同じ病気の同年代の仲間たち。今度は自分がサポートする側に
がん治療から休む暇もなく仕事に復帰し、子育てにも奮闘した福田さん。その後しばらくすると、育児・仕事だけではなく、自身の闘病経験から、若年性がんのサポートをするボランティアを始め、オンラインで患者同士が交流を持てるサイト「PeerRing(ピアリング)」の運営にも携わるように。そのきっかけとは…。 「私自身、がん判明から、セカンドオピニオンを受けて、転院するまでたった2週間程度。この間にもがんは大きく、痛みも強くなり、進行の早いがんということで、すべての判断を急がねばなりませんでした。 ただ、ライターという職業柄なんでしょうか、何でもかんでも調べなくちゃ気が済まないというか、きちんと裏を取らなくちゃ!という気持ちがあったんです。でも普通は、最初に出会った医師にこの治療法しかないと言われたら、そういうものなんだ、と思っちゃいますよね。 私も最初の病院のままだったら…と思うと怖いです。でもだからこそ、治療が終わったら、自分の経験をどんどん発信していこうと思いました。実際、子宮頸がん患者の方で、私の経験を知って治療を始め、同じ病院に転院して無事出産をしたというお話をインターネットのニュースで読んだことがあり、すっごくうれしかったんです。 また、私が出産した病院は、妊娠中の乳がん治療の実績もあり、臨床試験の過渡期だったこともあってか、私と同じように妊娠期に乳がん治療をしている方がほかにも数人おり、先生の紹介でつながることができました。また、先生は『若年性の乳がんの患者会』も紹介してくれて、そこにも参加しました。 もちろん夫も家族も心配はしてくれるんですけど、『わかる、わかる~』みたいな共感はできないじゃないですか。だから、同じ病気の同じ世代の人たちと集まって話ができて、単純に共感してもらえる場があるのはうれしかったし、メンタル面を支えてもらったと思います。 そういう経験を経て、同じような仲間と共感できるようなコミュニティがあったらいいなって思っていたので、『PeerRing』の代表から「同じ病気を抱えた人がつながれる場をつくりたい、手伝ってくれる人を探している」と聞いたとき、私も参加して、今度はサポートする側(がわ)になりたいと思ったんです。 2017年に設立したSNSコミュニティ『PeerRing』は会員も増え、新たなコミュニティを立ち上げるなど大きくなりました。そして私自身は、その団体での仕事のほか、小・中・高の学校や企業におけるがん教育の講師や、がん患者団体の役員などもしています。がん治療をしていたころは週に2~3日働く程度だったのが、体が元気になるにつれて、仕事も増えてきた感じです」(福田さん) 福田さんが、サポートする側になって7年目。現在、経過観察として年に1度定期検診を受けているものの、手術から10年がたち、再発のリスクはかなり減ったそう。そして、息子さんは10歳に。自身が患った病気のことも、息子さんにオープンにしてきたと言います。 「がんでも、がんでなくても、人は病気になるものなので、隠すことでもないと思い、息子には病気のことを話してきましたし、小さいときから、がん患者が集まるイベントにも積極的に連れて行っていました。 保育園くらいになると、私が『実は私、この子がおなかいるときに、がんって診断されたんですよね』なんて話していたら、息子が『で、子どもはあきらめてくださいって言われちゃったんだよね』って、合いの手を挟むようになりました(笑)。そのくらい、息子の中では、病気が特別のことではないと思えているのかもしれません。 ただ、最近では、手紙や日記に『ママ、がんなのに頑張って産んでくれてありがとう』『ママはすごく頑張って自分のことを産んでくれた』と書いてくれたりすることもあるので、心に響いているものはあるのかなと思いますね。 とはいえ、10歳男子、反抗期ですからね。親子げんかになると『本当は僕なんかいなきゃよかった』なんて言うこともあります。そんなときは、『ママ、がんでお医者さんに死んじゃうかもしれないって言われながら頑張って産んだんだよ。だから、もう絶対そういうことは言わないで』みたいな話をすることもありますよ」(福田さん) 治療で大変だった日のお話も、サポートする側にまわってからのお話も、常にパワーがあふれているように感じる福田さん。そんな福田さんが今、妊婦さんやママに伝えたいことは…。 「そうですね、行政などでもいいので、親以外で頼れる窓口をたくさん見つけておくことが大事かなと思います。私の場合、産後に家庭支援センターの保健師さんが家に来てくれて、話を聞いてくれただけで、気持ちがすごく楽になったんですね。 産院によっては、相談室があるところもありますよね。医師には妊娠中の不安をなかなか聞けなくても、看護師さんに相談できるなら相談したほうがいい。 あと、もし妊娠中に病気が判明した方がいたら、勤めている会社にも頼ってほしいです。がんになった人が会社を辞めちゃう話をよく聞くんですが、私は辞めずにいて、本当によかったと思っているんです。会社にいれば、産前産後休暇や育児休暇がもらえたり、手当や給付金も出る。治療にはお金もかかるけど、そういうときに会社が助けてくれることもある。私はそれが本当に助けになったので、病気になったからって仕事をすぐに辞めないでほしいなと思います。 とにかく頼れるものは頼ったらいいし、信頼できる相談先をたくさん見つけておくことは、行き詰まったときに本当に役に立ちます。不安なときに相談する先がないと、もっと不安になるんですよね。そんな状態でネットを見ると、多分みんなネガティブな情報に吸い寄せられちゃいがち。そういう意味では、そのメディアが信頼できるかどうかの見極めも重要ですよね。 しっかりした情報源と、信頼できる相談窓口をいくつか持っておくこと。私は、生きていく上で、この2つはとても大事だと思っています」(福田さん) お話・写真提供/福田ゆう子さん 取材・文/酒井有美、たまひよONLINE編集部 妊娠中に判明した乳がんと向き合い、あきらめずに常に前を向いて、妊娠中の治療、出産、手術、そして育児と治療の両立と、次々に現れる課題を乗り越えてきた福田さん。10歳になった息子さんの笑顔があるのも、あのときの頑張りがあったからと思うと、感慨深いです。これから困難に出会ったとしても、自分をしっかりと持ち、頼れるところには頼りながら乗り越えていきたい――。そんな風に思える福田さんのお話でした。 「 #たまひよ家族を考える 」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指して様々な課題を取材し、発信していきます。
福田ゆう子さん(ふくだゆうこ)
PROFILE 1978年生まれ。静岡県出身。2013年、34歳で妊娠中に、若年性乳がんを患っていることが判明。妊娠を継続しながらがん治療を行い、出産。その後、自身の経験から、若年性がんのボランティア活動などに携わり、2017年SNSコミュニティ「PeerRing」の創立に参画。2020年神奈川県がん患者団体連合会監事に就任。現在は、フリーライターとして活動しつつ、がん患者のサポート、小・中・高校などでのがん教育授業、患者支援・啓発などの活動を行っている。 ●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。 ●掲載している情報は2024年10月現在のものです。
たまひよ ONLINE編集部