9条以外で「改憲連合」も? 参院選3分の2届かず
財政健全化が語られなかった参院選
最後に、今回の参院選で筆者がもっとも気になったのは、野党各党は消費増税に反対し、安倍首相も10%超の増税は否定するなど、どの政党も財政健全化を強調していなかったことである。給付を増やして税金を減らすのは、いわば有権者にとって「甘い飴」である。こうした政策を掲げれば選挙には勝てるかもしれないが、増税や給付削減などの「苦い薬」もいつかは導入しなくては、財政の健全性を損ない、将来世代に大きな痛みを与えてしまう恐れがある。 「苦い薬」を避けて、「甘い飴」を公約に掲げるのは政党にとって大きな誘惑だ。日本の財政と社会保障を長期的に持続可能なものとするためには、各党はこの誘惑を退けなくてはならない。 民主党の野田佳彦政権のときに民主党・自民党・公明党によって結ばれた2012年の3党合意は、消費税の増税を決め、税と社会保障の一体改革を目指すものだった。この3党合意は、与野党が手を組んで「甘い飴」の誘惑を退けた良い例だ(当時の与党は民主党、野党は自民党と公明党)。しかし安倍政権になって消費増税が先送りされてしまい、野党も消費増税に反対するようになってしまった。どこか一党が「甘い飴」に手を出してしまえば、他の党も追随しないと選挙で負けてしまうという構造があるからだ。 しかし、政府の債務がGDP(国内総生産)の200%を超えるという異常な状況の中、どの政党も「甘い飴」を掲げているようでは将来世代に大きなツケを先送りすることになりかねない。与野党にはもう一度3党合意の精神に立ち返って、将来世代への責任を果たしてほしいものである。特に安倍政権には、強力で安定的な政権である強みを活かして財政健全化への道筋を立てることを望みたい。
------------------------------------ ■内山融(うちやま・ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など