9条以外で「改憲連合」も? 参院選3分の2届かず
また、山本太郎代表が率いる「れいわ新選組」は重度障害を持つ候補を「特定枠」で立て、今回2人が当選している。この議員たちには、障害者差別解消法により国会は「合理的配慮」(※1)をすることが求められる。国会のダイバーシティへの態度が問われる局面であろう。 さらにれいわは、消費税廃止といった特徴的な政策を掲げ、SNSを駆使した選挙戦を行った。こうした斬新な手法は既存政党に飽き足らない有権者の心をつかみ、かなりの効果を収めたようである。そのポピュリズム的な手法には懸念も残るものの、従来の政党政治のあり方に見直しを迫る可能性を秘めている。今後の同党の動向からは目が離せない。 (※1)合理的配慮…一人ひとりの障害者が生活していく中で妨げとなるものを取り除くための配慮のこと
消費税や老後問題は打撃にならず
10月からの消費税引き上げや「老後2000万円」問題など与党側には決して有利な条件ばかりではないように見えた今回の参議院選だったが、与党はなぜ勝利することができたのか。その勝因について見てみよう。 今回の参院選では野党による選挙協力の成否が注目された。勝敗の鍵を握るのは32ある1人区であるが、そのすべてで野党は候補一本化に成功した。結果は1人区32のうち、野党系候補は10勝22敗であった。当選者の内訳は、立憲と国民が各1、野党系の無所属が8である。 1人区の過去の勝敗をみると、候補者が一本化されなかった2013年は野党の2勝29敗であり(当時は31選挙区)、候補一本化が実現した2016年は野党の11勝21敗という結果であった。 今回、1人区の自民党候補は32人のうち現職が28人であった一方、野党は30人が新人候補だった。一般に選挙では現職が有利とされるので、前回並みの10議席を確保できたという点では、野党側は健闘したと見てよいだろう。 とはいえ、選挙全体として見れば与党への支持は野党支持を大きく上回る。比例区で自民党は35%強の得票を得ており、16%弱の立憲とは2倍以上の開きがある。与党支持層、特に自民党支持層に一定の厚みがあることが、今回の与党勝利を支えていることは間違いない。 その背景にあるのは、第1に安倍政権への支持率の高さである。調査期間にもよるが、この1年間、内閣支持率は40%台をキープしている。政権に安定感があり経済も好調なことがその主因であると考えられるが、野党に追及の見せ場を与えるはずの予算委員会を4月以降開かないといった政権側の争点コントロール策が功を奏した面もあろう。 第2に野党の分裂である。1人区では野党候補の一本化が実現したものの、その多くは政党色を消すために無所属として出馬した。また、複数区では候補者調整は行われなかった。このような分断状況のため、有権者は安倍政権への有効な選択肢として野党を見ていなかったように思われる。今回、いわゆる改憲勢力が3分の2に届かなかったことに象徴されるように、野党は政権への批判票を一定程度集めることはできている。しかし、そこから一歩進んで、政権を担う主体として積極的に支持されるまでには至っていないようである。 第3に個別の争点についてみると、与党に不利となるかと思われた消費税や年金は、有権者の判断に大きな影響を与えなかったようである。消費増税については、すでに増税分を財源とした教育無償化が決定されているし、ポイント還元などの景気対策も進んでいる。有権者には増税を受け入れる用意ができているのではないか。 「老後2000万円問題」も、与党に大きな打撃とはならなかったとみられる。事前の世論調査によれば、多くの有権者は年金問題に関心を持っていたようだが、野党側は有効な対案を提示することができず、争点化に失敗したと考えられる。上記のとおり主要野党は年金の充実に加え、消費増税反対を訴えていたが、消費税を上げずに社会保障給付を増やすのは非現実的だと有権者は肌感覚で分かっていたのかもしれない。 経済政策について、有権者の多くは基本的にアベノミクスを是認しているようである。家計を重視したボトムアップ型の経済政策への転換という野党の対案も筋が通ってはいるが、具体性に欠ける感は否めない。憲法改正については、人々の生活実感から遠い論点のため、必ずしも有権者の関心は高くなかったとみられる。 なお、今回の48.8%いう投票率は戦後2番目に低い数字であった。一般論として、有権者は自分の1票で政治が変わりそうな見込みが高いときに投票所へ行く動機が強くなる。今回は年金などの争点について与野党の議論が盛り上がらず、政治の現状が変わりそうな見込みも大きくなかったので、かなりの有権者が投票所に足を運ぶのをためらったのだろう。