「野菜一つ100円では飯は食えんです」「飢えるのは時間の問題」 深刻過ぎる農家の実情をレポート
「食べていけるなら喜んでやる」
今年の7月から、農水省は新基本法の説明会を全国で開催しているが、その前の3月に衆議院議員会館で開かれた意見交換会で、同省の官僚は食料自給率が減少した理由をこう説明した。 「25年前の食料自給率は40%で、目標は45~50%でしたが、現在は38%です。こうなった影響はコメの消費量の減少です」 コメを食べなくなった国民のせいだと言わんばかりである。国民の嗜好をコントロールするのはむずかしいから食料自給率を上げられないのだとも言った。こんな認識で食料自給率を上げられるのだろうか。 また7月に農水省で開かれた説明会では、農家が急激に減少している理由についてこう説明している。 「日本社会が急速に高齢化するのだから、農業者が急速に減少するのは避けられません。これは努力では避けられない問題です」 高齢化は分かっていたことである。問題は世代交代ができていないことではないか。その理由について、どの農家もこう口をそろえた。 「農地を売るのは後継者がいないから。後継者がいないのは農業で食べていけないから。食べていけるなら喜んでやりますよ」
「飢えるのは時間の問題だと確信」
新基本法で食料安全保障をうたうなら、まず農家が本来の農業で生活できる仕組みを作ることが先決ではないか。農業で十分に生活できるなら、後継者や新規就農者を心配する必要もないはずである。 非常事態はウクライナ侵攻のような戦乱だけでない。大きな災害がいつ起こるか分からない日本では、災害によって農地が破壊され、食料が不足する事態が訪れるかもしれない。そうした危機への対応は、全国に十分な農地と十分な数の農家がいてこそ初めて可能となるのではないだろうか。 「少し前まで、いつか飢えを体験するかもしれないと思ったことはあります。でも今は、飢えるのは時間の問題だと確信しています」 千葉の農家も熊本の農家も同じことを言ったのはなんとも不気味である。 前編「『田舎の地主が億万長者に』『“タダでもいい”と思っていた土地が1坪100万円』 半導体工場用地バブルに沸く熊本県で何が起きているのか」では、熊本県で農業用地の地価が高騰し、農地が次々と売りに出されている問題について報じている。 奥野修司(おくのしゅうじ) ノンフィクション作家。1948年生まれ。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で講談社ノンフィクション賞と大宅ノンフィクション賞を受賞。『ねじれた絆』『皇太子誕生』『心にナイフをしのばせて』『魂でもいいから、そばにいて 3・11後の霊体験を聞く』など著作多数。 「週刊新潮」2024年8月8日号 掲載
新潮社