「野菜一つ100円では飯は食えんです」「飢えるのは時間の問題」 深刻過ぎる農家の実情をレポート
1960年代に1000万人以上いた基幹的農業従事者は2020年には136万人まで激減。借金、後継者不在、肥料価格上昇。さまざまな理由で農家が農地を手放し、離農しているのだ。ノンフィクション作家・奥野修司氏による、「日本の農業危機」現場レポート後編。 【写真を見る】この土地が1坪90万円? 異様なバブルに沸く熊本県の田舎町 ***
前編「『田舎の地主が億万長者に』『“タダでもいい”と思っていた土地が1坪100万円』 半導体工場用地バブルに沸く熊本県で何が起きているのか」では、熊本県で農業用地の地価が高騰し、農地が次々と売りに出されている問題について報じたが、今回は農家が大事な農地を手放す理由とこの国の対策を伝える。 阿蘇山周辺の一帯は水はけのよい火山灰土が広がり、有機物をたくさん含んでいて土壌改良が必要ないといわれるほど豊かな土壌である。そんな良質な農地がなぜ売られるのだろうか。 「農業だけでは食べていけないからですよ」 TSMC(台湾積体電路製造)の工場が立つ熊本県菊陽町の北隣の合志(こうし)市で8ヘクタール(約8町歩〈ちょうぶ〉)の畑に栽培したお茶や野菜を自ら加工・販売している中山繁雄さん(69)がこう断言した。 「親子2世帯が生活できる農家は多くないです。大根は30年前も卸値50円、今も50円。あり得ないですよ。この辺の農家の半分は借金を抱えています。借金があるから、やめたくてもやめられんのですが、もう限界ですね。いつまで仕事ができるかと考えたら、うちも廃業しようかと思いますよ」 既に息子には、畑を継がせないつもりで牧草を刈る機械のオペレーターをさせているそうである。地元から頼られている人物ですらこの状況なのだ。
「借金がチャラになった人にとっては神様」
最近も、約20ヘクタールの農地でネギや白菜を栽培し、理想的な農家といわれていた一家が、雇い人に給料を払えなくなって離農したという。その話を聞いて不安になっていた別の農家は、TSMC関連の運送会社が土地を探しに来たので、この際に、と喜んで土地を売ったそうだ。 「TSMCを悪く言う人もいますが、借金がチャラになった人にとっては神様です。昔は嫁や息子はただ働きでも手伝いましたが、今は給料を払えないと家族が崩壊します。嫁さんが外に勤め出したら、ヘタすると離婚になります。だから労賃が払えるだけの収入がないと農業は続けられないんです」 朝から晩まで働いても利益が出ないことについては、直接的な回答ではなく、こう言った。 「スーパーに行けば安売りの目玉商品として野菜が並んでいます。そういうことを少し考え直さないと将来、食べられなくなるよ、と(消費者に)言っても聞かんもんね」