「あるべきだけど作られていない映画を作る」…ドキュメンタリー「アイヌプリ」の福永壮志監督
公開中の映画「アイヌプリ」は、引き込まれずにはいられないドキュメンタリーだ。撮影地は、北海道白糠町。日常の中でアイヌプリ(アイヌ式)を実践する人々を追った作品。冒頭、アイヌ民族伝統のサケ漁に臨む男性が映し出された瞬間から、目を奪われる。単に捕るだけではなく自然への恵みに感謝しながら捕る、その姿に。アイヌ文化を継承する人々の「今」をありありと体感させる作品を撮った、福永壮志(たけし)監督にインタビューした。(編集委員 恩田泰子)
「アイヌ式」を日常の中で実践し、伝える姿追う
冒頭に登場する男性、1985年生まれの天内重樹さんが、本作の主人公。「シゲさん」と呼ばれる彼は、アイヌの伝統的サケ漁、マレプ(プは小文字)漁を行い、子どもたちに、「命をいただく」ことへの感謝や食べ物の大切さなどについて実践的な食育を行っているという。
福永監督は、北海道出身。ニューヨークで映画を学び、初長編「リベリアの白い血」(2015年)でベルリン国際映画祭パノラマ部門正式出品を果たした。2020年の第2作「アイヌモシリ」(リは小文字)では現代のアイヌ民族の姿をフィクションの形で描き、トライベッカ映画祭などで賞に輝いている。「SHOGUN 将軍」第7話など、アメリカのドラマシリーズの監督も手がけてきた。
天内さんとは、「アイヌモシリ」の撮影中に知り合い、同作の撮影を終えたその足で、彼と友人たちによるマレプ漁を見学に行ったという。
「シゲさんのマレプ漁の活動は有名で、一度見てみたかった」と福永監督は話す。「誰もいない暗闇の川の中で、夢中で漁をする姿がとても印象的で、いつか映像に収めたいと思ったのが、この映画の始まりです」
言葉・動作・仕草…そのまま見て体感してほしい
映画そのものもマレプ漁から始まり、天内さんと家族、友人に焦点を当てながら、今を生きるアイヌの人々が、日常の中で、祖先から続くサケ漁の技法や文化、信仰を次世代に伝えていく姿を追っていく。
「アイヌの伝統文化として伝わっているものの中には、現代社会の中で忘れられがちなものがこめられている。自然の中のいろいろなものへの感謝の気持ち、神様を見いだす信仰の精神性には、個人的にすごく共感を覚えるところもあります。美しいとも思いますし、そういう考え方から自分も学びたい」